オランダが敗れて

オランダが負けてしまった。これで「理由無く好きなので、つい応援してしまう」チームは、あとアルゼンチンだけ。僕にとっては困ったもんである。
だけど、オランダ VS ポルトガルは極めて見所に富んだゲームであった。
1つは、退場者が出るまでは、4-3-3同士の対決という所である。オランダは、4-1-2-3というよりは、そのもの4-3-3に近い。左からロッベン・カイト・ファン=ペルシの3トップと、コクー・スナイデル・ファン=ボメルの3ボランチは、それぞれ近い縦の位置取りをしていて、3列に近い陣形であった。一方のポルトガルは、4-3-2-1と言った方が正確か。パウレタが一人残り、やや距離を置いてフィーゴとクリスチアーノ=ロナウドが控える。3トップに4バックと数が守備が1人余る形で拮抗している為、殆ど序盤から両サイドバックが攻撃参加する姿は見られなかったが、ボール取られてからも引かずに高い位置からのプレッシングには見ごたえがあった。
4-3-3システムでは、フィールドにバランスよく選手が配置される為、1人の選手に対して、複数の選手がプレスに行き易い。特にポルトガルは前半途中から守備に1対多の関係を作り出していて、効率良くボールを奪っていた。日本戦では、日本が4-2-2-2だと相手の選手がサイドのスペースを無人の野の如く駆け上ったり、3-4-1-2だとサイドハーフの後のスペースに走られたり、ドイスボランチの前まで全くプレッシャーが掛けられなかったり、というのがよく見られるが、4-3-3だとスペースが少ないのと、ボールを失った後でも複数の選手がチェックに行き易いので、なかなかダイナミックな長距離ドリブルは難しい。
よって、勢いクサビの縦パスが重要になってくるのだが、ここでカイトとパウレタというセンターFWの差がちょっと有ったかなと思う。カイトはリカルド=カルバーリョが相手だと分が悪かったのか、高さも裏への飛び出しも今ひとつな為、ボールを受けても結局ゴールに背中を向けたまま、ボールをMFに戻すシーンが多かった。一方で、パウレタはゴールはならなかったものの、持ち味のオフ・ザ・ボールの動きの質の良さで何度かDFのウラを取っていた。
こういった相手に脅威を与えるFWの有無が徐々にボランチの動きに効いてくるものだ。オランダは、パウレタの動きを警戒してか、徐々にスナイデルやファン=ボメルの攻め上がりが遅くなり、攻撃が3トップのみで終わるケースが増えてきていた。カイトに入ったボールがどこにも出せずに、あっさり下がってきたポルトガルMFに奪われるシーンが目立ったのもこの頃だ。オランダのMFが素早く前に展開していれば、カイトがクサビになって、MFが受けてミドルシュートやドリブルからサイドへの展開とボールが繋がっただろう。また、少なくともセンターFWがファン=ニステルローイで有れば、独力でなんとかしたり、MFが上がってくるまでキープしたりという芸が有るのだが、周りと連動して生きるタイプのカイトではちょっと荷が重かった様に思う。ファン=バステンは前線からのプレッシングとか、色々な要素を勘案してカイトを選んだのだと思うが、

  • ポルトガルの前の3人が良かったことで、オランダのMFの押し上げが足りなくなった
  • リカルド=カルバーリョの出来が良すぎた

という点から、このゲームにおいてはカイトが逆にバランスを崩すようになっていた様に見える。これはあくまで仮説だが、サッカーのバランスというイージーな表現の中には、極めて難解な要素が絡み合って入っており、これを試合前から適切に予想したり、試合中でも見切ったりするのは非常に難しいことだと思う。
逆にポルトガルはコンパクトなラインというのを地で行くスタイルで、パウレタフィーゴにボールが入ると、デコやマニシェが連動して押し上げていて、迫力のある攻撃を展開していた。マニシェの決勝点はこの流れの中から生まれてきたものである。
2つめは、極めて雑駁な感想だが、前回W杯にオランダが出ていない事が、影響しなかったかと言う事である。調べたわけではないが、メンバーの中でコクーとファン=デル=サル以外はW杯のピッチに立った事が無かったのではないか。オランダは美しいサッカーはするが、もともと決して試合巧者では無い国である。このゲームでは、カードが乱舞して荒れた後、致命的なまでに淡白になってしまったのは、W杯という一発勝負の大舞台での経験不足が出た様に感じる。パワープレイになるのは仕方が無いのだが、ロッベンやファン=ペルシがサイドの低い位置に居たりで、真ん中で分厚い攻撃が出来ていなかった。ああいう時は、クロスを上げるのはDFか低い位置のボランチに任せて、前の選手は有る程度真ん中、かつ縦の関係で集まっていないと、なかなかゴール出来ないものである。事実唯一惜しかったのは、中盤の底に居るコクーが攻め上がって真ん中から打ったミドルシュートであった。また、ロスタイムに入る頃には、必死さも薄れてきて、諦めムードすら漂っていた。これがドイツやアルゼンチンなら、最後の粘りと気迫がちょっと違ったかなと思う。
我らが日本代表も、W杯を経験しているプレイヤーと、それ以外の初出場のメンバーで、やや温度差が有った。4年は長い。一つ出場を逃すと8年間隔になり、余程の早熟の天才が居ない限り、W杯の経験というのはチームに引き継がれなくなる。その意味では、W杯出場は決して途切れさせてはいけない経験の連鎖なのである。
最後に、カードがバンバン出た荒れたゲームだが、見ている方は物凄くエキサイティングだった。こういう息も出来ない程緊迫して、だんだん戦争の様な雰囲気になってくるゲームこそワールドカップの醍醐味だと思う。日本代表のゲームで、ここまでギリギリで、かつ一触即発の様な雰囲気になったのは何時が最後だろうか。トルシェの時はホームでお祭り気分だったし、ジーコジャパンは何かのんびりしていた。もしかしたら、加茂監督解任の後、岡田ジャパン初陣のウズベキスタン戦で、終盤敗勢を見て、カズ・城・呂比須・秋田の4トップ気味にしてパワープレイを選択した時や、その2戦後のジョホールバルの終盤以来かも知れない。こういったシビれる場面で決まったゴールのカタルシスが、サッカーの麻薬たる所以である。
次のW杯、是が非でも一発即死の決勝トーナメントに出て、こういう雰囲気をまた味わいたいものだ。