ルノー・日産とGM

bohemian_style2006-07-18


ワールドカップでわーわー騒いだ後に、気が付いたら世はすっかり夏枯れの季節に入ったらしく、僕もビジネス関係では書くネタが無い。困ったもんである。本blogは、左のカテゴリーの順番が示す通り、もともと食いもんとかホテルとか、旅行記とか、旅ネタを書こうと思って始めたblogなのである。それが、忙しすぎて東京を出れない生活が一年近く続いたので、仕事ネタしか書くことが無かったというのが、バイアウトとかM&Aを書くようになったきっかけで、これが最近はワールドカップが始まったり、写真学校に行ったりという季節要因(?)のせいで趣味ネタばっかりになるという脈絡の無い展開に続いている。
よく考えるとバイアウト関係で他にblogというと、アメリカ在住のお二人による素晴らしいサイトを別格としても、日本でバイアウト投資に現役で従事している方のblogってのはとても数が少なそうである。これはレアな業界だからしょうがない。また、M&Aはより大きな業界で、かつて幾つか有ったが、守秘性を重んじる仕事の性格からか、日記よりは純粋な意味でblogに近いものは、いつの間にか更新されなくなったのも散見される。ハンズオン投資という観点だと、大学時代に面識のあるIT系VC投資の大立者のblogが有名だが、これはファームと自らの名前を明らかにした、仕事に近いものなので、完全に私的なものとは若干趣を異にする。
私的な立場で投資やM&Aを話すというのはなかなか難しい。業務上知り得た秘密とかノウハウは書けないので、報道に出ても触れられない案件も多いし、有望な投資のソーシング方法とは、という話になるとこれはノウハウなので、なかなか自分の思いをblogという形で世に出すのは困難だ。当社でもパートナー層が、自分のナレッジを基に論文やケースを書いているが、これは会社としての業としてやっているものなので、私的なblogとは立場が異なる。よって、会社員としてのグレイゾーンに触れずに私的なblogを書こうとすると、ファンドと関係の無いディールの話と、投資戦略・哲学、ファンドで働いていての感想、或いは投資から派生した考察、みたいなエリアに限られると思われる。
話が横道にそれたが、カルロス=ゴーンがGMにご興味の様である。

ルノー・日産「GMへ資本参加必要」・ゴーン氏、提携に自信
 日産自動車と仏ルノーの社長を兼務するカルロス・ゴーン氏は、13日発行の仏ルモンド紙とのインタビューで、米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携交渉について「両社が協力していくには資本参加が必要だ」と語った。日産・ルノーの提携の成功を考えれば、GMとも「うまくいかない理由はない」と提携に自信を見せた。
NIKKEI NET

アルセロール・ミタルでは無いが、大きな話である。この話が仮に実現するとして、それが成功するかは、日産がなぜ復活できたかと、そこにルノーが果たした役割は何だったかに関する考察が必要であろう。日産の復活については、色々な本が出ているので、詳細は専門書に譲りたいが、僕は一つの観点として改革の順番を考えたいと思う。
ゴーンが入ってきて、先ず手を付けたのは資産売却による財務リストラと、購買手法の抜本的見直しによる事業リストラである。リストラに目処が付いた後に、新車を出す様な前向き施策や、ルノーとの車台共通化とかの一段ハイレベルのコストマネジメントを行っている。典型的な、shrink to growのプロセスであり、shrinkの部分はゴーンの高い個人技と強い意思、外様の株主というしがらみの無い改革者のポジションが結実したものである様に思われる。ここには、ルノーという組織とのシナジーは余り発現していない。growのステージに入って初めて、シナジーが本格的に追求されているのである。
これはスケールは異なるが、同じ様にM&A後の経営改善を行っている自分としても納得が行くプロセスである。特に企業再生案件では、改革の一番最初に難しい事をやろうとすると失敗する。大概において、儲かっていない会社は、コストカットの不徹底と業績管理制度の不備を併発しているものである。この不備に対して、ファンドの経験が浅い若いポートフォリオ担当者が(僕の事である)、巷の経営理論をお勉強して、どうせ改革するならMECE*1に設計されたベストプラクティスを入れようと、前者についてはSCMだとかシックス・シグマだとかABM*2だとか、後者についてはバランスド・スコアカードだとかスループット会計だとかをついつい設計してしまうのだが、これはうまくいかない。コストマネジメントと業績管理制度は企業の基本動作みたいなものなので、これが出来ていない企業に、基本動作が出来た後で更なる高みを目指す様な難しい制度を入れても適合しないのである。企業再生は、先ずはシンプルかつ徹底したコストカットと、数個の利益やキャッシュフローに直結した数字に絞ったKPIから始めて、徐々にMECEでハイレベルな所に移っていくのが常道の様に思われる。
こう考えると、GMについても同様に、先ずは聖域無きリストラを行って、その後にシナジーの様な難しい話に移っていく必要がある様に思われる。単体で立ち行かない会社にシナジーの話は出来ないからである。よって、ルノー・日産が出資する場合には、すぱっと削れるコストがどの程度有るのかという確証が前提となろう。
僕は自動車業界のコスト構造を分析した事は無いので、確たる事は言えないが、ここ何年も危機にあった会社にリストラ余地が沢山残っているとは余り思えない。GMの問題は、新車1台あたり何十万円に及ぶという退職給付コストというレガシーコストと、それに足を引っ張られた魅力ある新車の不足の様に思うが、これは提携が解決になるイシューではない。残る効果は、規模の拡大を生かした、購買コストのカット位だろうか。日産も、最初こそ化粧鋼板の購入において大幅なコストカットを実現したが、その後は値上げを呑まされ続けている。アルセロール・ミタルの誕生による売り手側へのパワーシフトは確実に発生するだろうが、GMルノー・日産グループで購買を行えば、そのシフトを逆転させる事は可能かもしれない。ただ、自動車の様な加工度の高いプロダクトで、原材料費の削減が全体の収益にどれ程インパクトを与えるかを考えると、それがGM復活の決定打というにはちょいと役不足とも思われる。
この様に、イマイチ現時点での情報ではスッキリと提携のGMにとってのメリットを理解できない状況である。こういう時は穿った見方をしてみるのも面白いのだが、提携によってルノー・日産グループが主に利益を専らにする事を狙っていると考えると、もう少しスッキリする。購買コストというのは大体規模に比例しているものなので、ルノー・日産グループよりも規模が大きなGMグループの方が、購買コストは安い可能性は高い。よって、僅かの出資によって、購買を共通化出来れば、ルノー・日産グループの方がコスト改善効果は大きい可能性がある。ルノーと日産を併せた売上高は15兆円位なので、1ポイントでも営業費用を改善できれば1,500億円である。GM時価総額は1.8兆円そこそこなので、報道にある様に、20%出資して3,600億円投資しても、それによって購買コストが下がれば2年ちょっとで回収可能だ。ま、この算術の前提には3,600億円のcapital injectionによって、2年ちょっとGMがgoing concernである事が前提なのだが。
さて、いまいちスッキリこない提携効果と、穿った話を並べてみたが、今後、ゴーンがどの様な点を提携のメリットとして挙げるかで、彼が何を考えているのか、もっと深い話がそこにあるのか判って来ると思う。もし、この資本提携が実現すれば、世界史上まれに見る規模の同業同士のM&Aと思われ、そのターンアラウンドとシナジー発揮のプロセスは非常に興味深いケースになるだろう。バイアウト投資の世界も、単純にコストをカットしたりとか、利益志向に会社をドライブしたりするだけで経営改善が図られる案件は、今後日本企業の生産性の持続的な向上と共に減っていくだろう。それは、大企業で社内の経営企画や外部の経営コンサルタント等の賢い人達が、戦術的なリストラは既にやり尽くしたケースで、さあどうするという場合が多くなるという事を意味するが、GMのケースが成功すれば、そういった環境下で今後投資を行っていく上で、とても示唆深いと思われる。
最後に、実は今日GMの話を書こうと思ったのは、NIKKEIブロードバンドニュースで、キャディラックDTSの広告が出ていた事がきっかけである。DTSは高級セダンなので、独身オトコが買うクルマでは無いが、SUVであるキャディラックSRXはシビれるクルマである。最初出た時は何とも鈍重に見えたポルシェ・カイエンも、最近になっていいなと思いだしたが、SRXも個性が立ってて、良い。サマージャンボが当たれば、本気で迷おうかしらん。その前に、買わなければ当たらない。このblogの2日目のネタが僅か30番差で3億円を外したという、僕がプロ雀士になれなかった最大の原因である土壇場での引き弱さを晒したネタだったが、そろそろbingoが来る筈だ。きっと。

05/3/31 年末ジャンボがくれたもの。

あ、また4,000字近くになってしまった・・。

*1:MECE:Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive=漏れなくダブリなく

*2:ABM:Activity Based Management=活動基準管理