夕焼け

夕焼けってのは、日が沈んだ後にこそ、空が文字通り焼けてきて、赤さを増すものである。
こんなこの世に一日生を受けるだけで判る様な当たり前の事を僕は随分と長い間知らなかった。生まれが空気の澄んだ田舎で、毎日の様に夕焼けになるまでサッカーに野球に鬼ごっこにと駆け回っていたにも関わらずである。
この事を始めて意識したのは、大学4年の夏、シベリア鉄道に揺られて北京からモスクワに向かう途中である。大平原の、草原の海とも言うべきモンゴルを北に向かうと、いつしか針葉樹林が優勢になり、バイカル湖を越える辺りでは完全なタイガの中を列車は進むようになる。あれは確かバイカル湖からクラスノヤルスクの間だと思ったが、あまりに壮大なタイガの夕焼けを見た時に初めて、夕焼けは日が沈んだ後の方が赤いという事に気が付いた。
Sunset
[NIKON D50/SIGMA DC 18-200mm/F3.5-6.3]

  • 沖縄の太陽が東シナ海に沈む。雲はまだ暗く、空も赤というよりはまだ昼間のオレンジである。

視界を埋め尽くす程広く、自然が自然らしく存在するタイガの森では、ありふれた日の出日の入りすら、神々の劇場となる。その後の旅を愛した人生の中で、様々な夕焼けを見たが、未だにこの低湿度で、無風の大気に沈んだタイガの夕焼けが一番だと感じている。
今居るここ沖縄は名護でも、亜熱帯モンスーンの素晴らしい夕焼けが見られる。北方で見る夕焼けと南方で見る夕焼け、何が違うとなかなか正確には説明できないが、全く趣きが異なるものである。南の方が赤くなるエリアが小さいが、色は鮮やかな感じがする。また、熱帯の空には雲がつきもので、この雲のもつ視覚的な変化もまた面白い。
ただ、一つだけ変わらないのは、日が沈んだ後の怖いくらいの赤である。
Sunset glow
[NIKON D50/SIGMA DC 18-200mm/F3.5-6.3]

  • 雲が燃えているかの様だ。闇と青と赤がせめぎあう。

今日も思わず、うっとりと夕焼けを眺め、そして夜の海に仰向けに浮かんで星を見た。夕焼けをテラスで見つつ、生暖かい風、本州の風とは違う、森の甘い匂いのする風に吹かれると、思わず色々なことを思い出す。南の島の旅行というのは都会の様な刺激には乏しいものである。一人で過ごすには考える時間が有りすぎる。南の島は、気のおけない仲間と来て、ゆったりとした時間を共有するに限ると僕は思っている。
sky on the floor
[NIKON D50/SIGMA DC 18-200mm/F3.5-6.3]

  • マリオットかりゆしビーチの中庭にて。スコールで出来た水溜りに空が映る。