ミクシィ、マザーズ上場へ

久しぶりにIPOでおっと思ったので、上場後の時価を考えてみることにする。
SNSmixiを運営する株式会社ミクシィが9/14に東証マザーズに上場する。大したものである。社歴としては99年から有るが、mixiが始まったのが2004年6月だから、実質サービスイン後、2年3ヶ月でのIPOだ。会員数は500万人だから、いかにこのSNSブームをうまく捉えて拡大したかがよく判る時間軸である。

○YOMIURI NET

このニュースによれば、

  • 売上高  :18億9300万円
  • 経常利益 :9億1200万円

とのこと。この利益率は凄い。思わず東証のページを覗いてしまった。
東証の新規上場のページから、新規上場企業の上場のための有報が見ることが出来るので、財務情報は分かるのだが、なかなか面白い内容だ。

営業利益は過去2期しか判らないが、経常利益は5期追える。デットが小さく、資産も余り持たないこの手の会社は、営業利益が経常利益と殆どイコールなので経常利益をもって、分析の対象とするが、

  • 03年3月期 売上高1.45億 経常利益▲0.04億
  • 04年3月期 売上高3.03億 経常利益0.08億
  • 05年3月期 売上高7.39億 経常利益1.64億
  • 06年3月期 売上高18.93億 経常利益9.12億

という業績推移である。最後の2年間の比較が興味深いが、売上高の伸びが11.54億なのに対し、利益が7.48億伸びている。売上高1単位の伸びに対する利益のデルタが実に0.648だ。その前の年が、売上高4.36億の伸びに対し、利益が1.56億の伸びだから、デルタは0.358である。

この数字は、システムインフラや、その維持に係る人員など、事業を運営する為の固定費をカバーする損益分岐点を04年3月期に越えて以来、売上が上がれば殆ど儲けになる状況を示している。限界利益率も極めて高いのだろう。会員数が2倍になり、サーバーへの投資や保守人員が2倍になったとしても、限界利益率が極めて高く、かつ損益分岐点を越えていれば、バカスカ儲かる会社になる。

ちなみに、僕は知らなかったのだが、株式会社ミクシィの売上高約19億の内、mixiの売上は6億ちょっとに過ぎず、「Find job!」という求人サイトの売上が12億と全体の3分の2前後を占めている。*1ただ、2つの事業の扱いとしては、「事業の状況」のチャプターを見ると、mixiの方から記述をしており、web2.0モデルの代表的企業として上場するというエクイティストーリーに沿った形で、売上高は小さいが投資家にはこちらの方が違和感が無いだろう。

あと、ちょっと興味が有るのが、今後の成長余地である。Find job!の方はよー判らんので、置いておくとして、mixiの方を考えたい。mixiの事業は、広告費とプレミアム会員という有料会員からの会費が現在主な収入源と考えられる。広告がクリック連動型だとすると、基本的には両収入ともに会員数に連動した収入と考えて間違いはないだろう。そうすると、昨年のmixi事業の売上高6.4億が、何万人の会員からもたらされたかを考えれば、ある程度成長余地は予測できる。

株式会社ミクシィのウェブサイトのプレスリリースを見ると、2005年4月6日に会員数50万人、2006年3月2日に会員数が300万人を突破したとある。この間、線形的に会員が増加したと考えると、大体06年3月期の平均会員数は、180万人位である。180万人が6.4億円の収入を生んでいるという事だ。

今後、mixiが収入の多様化、1会員あたりの売上の増加の努力をまったくしないと仮定すると、どこまで会員数が伸びるかが売上高の限界を決める。現在のYahoo検索のユニークユーザーが2,600万人、楽天のそれが1,600万人といわれることを考えると、mixiが、人間社会の「スモールワールド」における「細い繋がり」(=かつてのクラスメイトなど、頻繁に会わない知り合い)を維持拡大させる社会インフラとして機能しだしている事を考慮に入れても、1,000〜2,000万人の所で頭打ち感が出てきそうだ。という事は、前期の会員数の10倍前後、売上高で言うと60-70億位がSNSでの売上成長の一つの目安になるだろう。

mixiは携帯電話と違って収穫逓増モデルであり、市場がサチュるに従って、アクイジションコストを掛けなければ同業に取られるという事は無いため、現在の売上増に対する利益のデルタを維持すると仮定すると、非常に荒っぽい計算だが、今後会員数が10倍になって、売上が60億伸びた時の経常利益の伸び幅は39億円である。今の会員数のグロースレートからすると、これは2-3年後に現実化する世界だろうから、mixiは上場後数年にして、

  • 売上   :80億
  • 経常利益 :48億
  • 当期利益 :30億

なんていうベンチャーの域を超えた立派な企業になりそうである。もちろん、会員の滞在時間の長さや日記やレビューコンテンツの充実を活かした物販の可能性などはまだ価値を実現できていないし、この他収入の多様化の道は非常に大きいと思うので、これ以上のグロースを示してくれるとは考えている。

僕は上場株投資はしないので、何とも言えないのだが、2-3年後の当期利益30億以上を見込めば、その時のPER30倍相当として、ActualのPER200倍・時価総額1,000億円は上場後軽く越えそうな感じがする。売上高64億、当期利益15億のネットオークション大手ディー・エヌ・エー時価総額1,500億だから、当初の利益水準が小さくても、グロースを見込めば、これよりも上に行ってもおかしくない。

サービスイン後2年と少しで時価総額1,000億円。きわめて気持ちの良いサクセスストーリーである。

*1:直近の3月の月次決算ではmixiの売上が全体の60%を占めたとのこと