三洋の危機と希薄化の織り込みについて考える。

 三洋電機が相当危機に追い込まれている。過去の粉飾について、泣く子も黙る証券取引等監視委員会が調査をしている様だ。要は05年3月期、06年3月期に出した巨額の特損は、本来04年3月期に出すべきだった減損損失を先送りしたものが含まれていたということで、04年3月期を粉飾によって黒字に見せた、というものである。

三洋電機、不適切な会計処理の疑い・証券監視委が調査
 経営再建中の三洋電機が2004年3月期決算で不適切な損失処理をしていた疑いがあるとして、証券取引等監視委員会が調査を進めていることが23日、分かった。子会社・関連会社の株式の評価損を三洋本体の決算に反映させるうえで、不適切な会計処理をしていた疑いが持たれている。監視委は三洋側に自主的な有価証券報告書の訂正を促す見通しだ。

○NIKKEI NET

 日興コーディアルは、こんな順番で物事が進んでいる。

  1. 証券取引等監視委員会が課徴金納付命令を金融庁に勧告
  2. 日興が自主的に有価証券報告書を訂正中
  3. 訂正報告の提出を待って、東証上場廃止を判断

 山本金融相は、粉飾が事実なら課徴金かという発言を本日したそうだが、まさに粉飾が事実なら、日興と同じスパイラルが始まることになる。減損損失を出すかどうかは一つの経営判断の為、会計士がOKを出すなら先送りした事のある会社は結構存在するだろう。現状では、三洋の先送りのレベル感が判らないので、何とも言えないが、会計士OKを取った上での経営判断で刺されるのは少々きつい気もする。ただ、日興の時も最初はそう思っていたら、後から詐意が有るのが発覚したから、三洋も何らかの悪意を証拠として掴まれているのかも知れない。

 こうなると、焦点は日興と同じく上場廃止の判断になる。事業法人は、信用力が問われる金融法人と違って余り上場の有無がビジネスに影響するとは思わない。ただ、三洋と言えば、同業といえる大和PIとゴールドマン=サックス、及び三井住友銀行が資本注入をしているから、僕としてはこちらの投資の行方は非常に気になる所である。3社は1株70円で転換できる優先株を入れているから、今日大暴落したとはいえ、181円という株価なら、まだ余裕はありそうだが、上場廃止となると様相が変わる。上場していれば、市場価格が「時価」であるから、大和PI、ゴールドマン=サックス、三井住友銀行の3社連合は、業績に関係なく、市場価格近辺で株は売れる。ただ、非上場となると話が違う。上場廃止になると、市場価格が無くなる上、これだけ大ロットの株をさばこうと思ったら、勢いM&Aになる。M&Aでは、PERという概念は殆ど意味がなく、DCFなどキャッシュフローから株式価値を算出する手法が主体になる。三洋電機の様な借金の重い会社は、金利の安い今であれば然程純利益に金利の影響は大きくないので、純利益×倍率というPERではそこそこ価値が付く可能性はあるものの、企業価値−純有利子負債で算出する株式価値だと借金の実額がずっしりと響くので、価値ゼロというのも有り得る。

 簡単な算数をやってみよう。三洋のIR説明会資料によると、08年3月期は、営業利益500億純利益200億を上げる予定の様である。PER15倍とすると、上場していれば来年の時価総額は3,000億だ。今の三洋の時価総額3,389億は、この辺の業績をイメージしていると思われ、それなりに合理性がある。これが上場廃止になると、成熟産業で運転資金増減が余り無く、金利が150億位なのでUnlevered FCFを350億として、7%で割り引くと企業価値は5,000億だ。純有利子負債は3,767億もあるから株式価値はたったの1,233億だ。3社連合の議決権は全体の約70%だから、3,000億円投資したのに800億円弱しか返ってこない「大損」投資という計算だ。割引率を5%としても(7,000億-3,767億)×70%で2,300億弱なので、まだ元本には達しない。

 これは、僕が投資担当者だったら、相当ハラハラする状況である。この3社の事だから、デューディリはやり過ぎるくらいきちんとやったと思うのだが、それでも見落とす事はあるという事なのだろう。あと、仮に上場廃止が決まった時に、イベントドリブン的に再上場時の値上がり益を狙って買いを入れる個人投資家の方が居るかもしれないが、これはまったくお勧めしない。上場廃止になってしまったら、プライシングは時価ではなく、キャッシュフロー上のフェアバリューになる。過去何円だったから、今が割安という議論では無いのである。

 ただ、上場維持していてももう一つ議論があって、3社連合が出資した優先株の転換による希薄化、ダイリューションを今の株価は正しく織り込んでいるかという事はよく判らない。今の普通株は18.7億株だが、希薄化後は61.6億株である。今の株価181円を前提にすると、08年3月期予想の純利益200億円は希薄化前でPER16.9倍、希薄化後はPER55.7倍という計算だ。この数字を見ると、08年3月期予想の純利益が定常状態だとすると、希薄化が織り込まれていないと考えた方が妥当の様な気がしてくるのである。織り込まれていなければ、3社連合が転換した瞬間に株価は、18.7/61.6、大体10分の3になってしまうという事だ。そうすると、今の233円が将来の70円(=3社連合の転換価格)という事で、3社連合の支援は割安増資だとか一部には言われたし、個人投資家ブロガーには結構叩かれていたが、実はあんまり割安ではない可能性がある。市場はある程度効率的なので、さすがに全くこの希薄化が織り込まれていないとは思わないが、今の株価181円は、儲かってるのか微妙なラインかなと思う。少なくとも、濡れ手で粟という感じの投資では無さそうだ。