アジアのバイアウト

 3ヶ月ほど前、Asian Private Equity & Venture Forum Japan、通称AVCJというカンファレンスが有った。これは、プライベート・エクイティのカテゴリーを構成する、バイアウトとベンチャー投資について、ファンドとファンドへの出資者達を集めた年次のカンファレンスである。
 出席してみると、例年になく極めて活況で、内容も濃く、眠くない会議は無いと断言できるほど会議嫌いの僕も、そこそこエキサイトする内容だった。一番興味深かったのが、ファンドの出資者に色んなアンケートをとって、そのフィギュアを紹介するセッションである。



  • アジア・パシフィックのバイアウトは、プライベート・エクイティの中で世界で最も魅力的なアセットクラスだと見られている

 各地域のバイアウトとベンチャー投資を魅力度別に並べたものだが、トップは、アジア・パシフィックのバイアウトであった。アメリカのバイアウトはかなり数字が低く、投資家はアメリカは既に飽和状態、或いはバブルであると見ているのが見て取れる。アメリカのバイアウトは、数も金額もでかいが、フルプライスになっているケースが多く、リスクフリーレートが4-5%あるのにエクイティリターンは20%がせいぜいになっている。一方で、まだ日本では、リスクフリーレートは2-3%なのに、バイアウトのエクイティリターンは、25-30%でも低い方、という感じだ。この辺の市場の成熟度が如実に表れた調査結果と思われる。
 また、ヨーロッパとアジア・パシフィックはベンチャーよりバイアウトの方が魅力度が高いと思われているが、アメリカはバイアウトよりもベンチャーの方が人気が有ったのも印象的であった。

  • ファンド選びに最も重要なのは投資経験の長さである

 百花繚乱のバイアウトファンドにベンチャーキャピタルだが、成功する所もあれば、失敗する所もある。従って、どこに出資するかが、投資家のリターンを決めている。では、投資家にとって、リターンを最大化する為には、何が重要か(=投資家がファンドやVCを選ぶ為のスキルは何か)という事だが、トップ3は、投資経験の長さ、投資チームの安定性、投資チームのインセンティブだった。一方で、重要でないのはポートフォリオの分散とか、規模という答えである。要は、流動性があったり市場変動があったりするアセットクラスでは無いので、通り一遍の管理手法が通用せず、極めて人的なスキルに依存しているという事なのだろう。投資の様な不安定かつダイナミックな世界で、良い人を長く安定的に雇うという極めて古典的なことが重要だというのは面白い。

  • ローカルファンドとグローバルファンドの人気度に差が余り無い

 アジア・パシフィックのバイアウトで成功するには、アジア・パシフィックベースのファンドが良いか、欧米ベースのグローバルファンドがいいか、欧米ベースのアジア・パシフィック特化型ファンドがいいか、なんていう質問もあったが、ややローカル系が人気があったものの、グローバルとの差はそれ程無かった。ローカルベースの方が、案件や市況をより良く判っているだろうという事だろうが、グローバルの経験も捨てがたいということだろう。また、欧米の投資家にとってよく判らないアジアのファンドを探すよりは、気心のしれたグローバルファンドでワンストップショッピングするのが便利というトランザクション・コストの問題もあるかもしれない。
 日本のバイアウトファンドが海外に出て行く場合は、経験、日本の投資家層の薄さ共に、欧米の先行しているファンドにビハインドしているから、相当思い切ってローカライズしないと難しい様に思う。

  • 日本の投資環境は、相対的に下位である

 さて、アジア・パシフィックのバイアウトはリターン的には人気は高いのだが、法律・税制を含んだ投資環境というと、一挙にランクを落として8ヵ国中6位である。1-4位までは、UK、カナダ、オージー、USとアングロ・サクソンの国が並ぶ。ちなみにビリはイタリアである。資本参加免税制度の税率が1-2年毎に変わる様な不安定な国だから、これは已むを得ない。日本は、前に書いた様な、事業譲渡類似株式への課税など、懲罰的な課税制度の導入が尾を引いての下位ランクだろう。「Invest Japan」を、内閣府・外務省・財務省経済産業省とよってたかって吹聴しているのに、寂しい数字である。


 面白かったのはこんなところである。マスメディアではファンドバブルだと言われているが、総じて世界の投資家層は、日本はまだこれからの市場だと見ている事がひしひしと伝わってきた。日々メディアを賑わす欧米のビッグディールと比べれば、当然の人気だろう。資本主義はある程度効率的で、一つの型に収斂するものであるから、あと3年もしない内に、日本でも「欧米か!」と突っ込まれる様なビッグディールが起きてくることと思う。
 また、成熟した日本経済においては、成長企業だったり、成長業界に身をおけるチャンスはそれ程無い。仕事自体も面白いが、業界も自分の会社も物凄い勢いで成長して、ステージが変わっていくこともエキサイティングな事である。そんな日々の雑感が、アンケートの数字として改めて示された、そんな感じの会議だった。

 ところで、本日7/5をもって、本ブログは10万アクセス達成の模様である。一時期滞った時期も有ったが、読んで頂いている皆様、ご愛読ありがとうございました。