流動性の大底と株の大底

 米国は公的資金の投入に動き、そろそろ金融危機の最初の大底は見えてきたように感じている。何でも10年前の日本に例えるのは正しくないとは思うが、幾つか重要な示唆はある。93年にやばくなったコスモ証券は、大和銀行に救済されたが、97年にクレジットクランチが起きた最中の三洋証券、北海道拓殖銀行山一証券の危機は誰も助けられなかったのを覚えている人も多いだろう。ベアスターンズが助かって、リーマンが死んだのは、まさしくこのパターンだ。僕の知り合いに、リーマン破綻の週末の数日前にリーマン株を買っていた、ex-リーマンの若者が居たが、僕は山一の大底は確か水曜日の45円(だったと思う)で、金曜日に100円ちょっとまで上がってその週末にトンだこと、その時に一定数の山一の社員・元社員が自社を信じて山一株を買い、私財を失ったことを寓話的に伝えたが、結局彼は少なからずの私財を失った様だ。だが、懲りずにCitiを買うとか言っていたから、元気が良くて大変よろしい。相場に最後に勝つのはこういう人なのかもしれない。
 あの時の記憶に鮮明なのは、山一が破綻した後、どこが次だと相場は犠牲者捜しに走ったことである。やり玉に挙がっていたのは大和証券だったと思うが、大和は銀行のバックアップもあって、その危機を切り抜けた。この時の魔女狩りの連鎖は、1-2週間の内に次の犠牲者が見つからなかったこともあって、自然に沈静化した様に覚えている。その後は、銀行が98年からまずくなり、2つの長信銀が破綻し、1つの信託銀行が救済され、99年の6月からの21ヶ月間で6つの生保が消えた。但し、これらの破綻劇は、97年の様な資金繰り破綻というよりも、最終的には金融庁が引導を渡すか、更生特例法の申請に拠っている。つまり、クレジットクランチの大底は97年で、その後は政策対応でインターバンク市場をじゃぶじゃぶに出来たから、資金繰り破綻は影を潜めたのである。また、98年から99年にかけて、公的資金で資本注入された事も信用不安の沈静化にインパクトしただろう。
 今回も、リーマンとメリルが片付いて、AIGが救済された後、97年の日本と同様に次の標的探しにマーケットは血眼になっていた。だが、預金や保険という本源的調達手段を持たないゴールドマンとモルガンスタンレーが、今日銀行持ち株会社化を認可され、当局による流動性の直接供給の目処が付いたことで、足元1-2週間は次の大物犠牲者が見つからない展開になるだろう。そうすると、自己回帰的にこの大惨事は沈静化に向かうのではないだろうか。75兆円という公的資金投入のニュースも大きい。これは金融機関の不良資産を買う為の資金であるから、

  • 金融機関にとっては、資金繰りの手段になる
    • →市場調達以外の道が開けて、クレジットクランチが収まる
  • 流動性が無いが故に価格がフリーフォールしていたMBSなどの証券化商品に価格付けがされる
    • →際限なくBSが痛み、資本が欠けるスパイラルに歯止め

というのが目的なのだろう。日本は直接的な金融機関への資本増強と、整理回収機構により債権買取の両面から不良債権問題に切り込んだが、米国が前者を避けたのは、世論の影響だろう。上の2つのポイントの内、後者が実現されれば、資本の問題は解決する、という筋書きなのだろうが、これが吉と出るか凶と出るかは判らない。
 さて、クレジットクランチが落ち着いたからと言って、株価が底かというと別の議論が有り得る。日本では、97年の金融危機に対して、株が大底である日経平均で7603円を付けたのは03年だ。それは01年までテックバブルが有った、という外的要因もあるだろうが、より大きいのは、土地の値段とか、企業の過剰設備とかのストック調整がそこまで掛かったということだろう。今回も、金融危機が片付いたから、即ロング、というのは危険だろう。
 そう考えると、米国のストック調整は住宅価格であるから、いつこの危機に伴う不況と株価が底を打つかを左右するのは、結局この指標だろう。価格が十分下がって、在庫がはけて、住宅投資が回復する見込みが出ることが、景気や株の底打ちに繋がるということだ。
 よくお邪魔している、このサイトは、

○外国株ひろば

大変読み応えがある記事ばかりだが、その中で「10月こつん説」というのがあって、全米の住宅価格を示すS&Pケース・シラー指数でいくと、6月の統計で全米20の大都市のうち、9つで上昇に転じているとのこと。多分、これは最速説なのだと思うが、サブプライムは論外として、オルトAあたりの人が、住宅価格の上昇分を考慮に入れずに買える価格にいつ収斂するかが焦点になるのだろう。それは意外に早いのかも知れないし、或いは、日本の様にマンション価格に対する年収倍率みたいなもので、比較的簡単に割り出せるのかもしれない。僕は、上場株は本業ではないのだが、もしトレンドフォローで投資するなら、そこを突っ込んで分析してみたいものである。