不良債権買取の仕組み
昨日に引き続いての金融ネタである、米国政府が用意した75兆円の公的資金による不良債権買取枠だが、その後のニュースを見ると、ほぼ同種の債権について政府が買入入札を行い、安い順に政府が買っていくという仕組みらしい。つまり、「サブプライムローンを背景にしたMBSの03年ビンテージ」とか、何らかカテゴリーに分けて買取入札が行われるのである。それに対し、売り手の金融機関は、簿価100円に対して20円とか30円とか、売りたい金額をオファーする。結果、安値を呈示した順に政府が買い入れる、ということになる。これによって、安い順に買うから政府の損失は最小限になるだろうし、ある種の納税者向けの公平性は担保できるだろう。
また、この値付けがどこで決まるかと考えると、なかなか絶妙な仕組みである。金融機関にとってみると、この入札には、当然ながら売却による損失に自らが耐えられる金額でしか応札できない。従って、この値段は結局資本の制約で決まることになる。入札によるから一見、市場原理で公平に値段が決まるのかと思いきや、さにあらず。この値段は、証券化商品の裏付け資産の時価によって決まるのではなく、その証券化商品を持つ金融機関が耐えられる損失の上限(=資本の余裕)によって決まるのだ。追加で調達する等、資本的に余裕がある所は、より安値を出してより多く売って損を確定できるだろうし、そうで無いところは、安値を出せないがゆえに、資産が売れず、苦しむことになる。ただし、75兆円が全体に対して十分に大きければ、いずれその様な金融機関にも安値順のドラフトが回ってきて、その弱い金融機関が耐えられる比較的高い値段で売れることになる。逆に、75兆円が十分でなければ、その資産の「市場時価」は、体力のある金融機関が売った比較的安値がメルクマールとなって決まり、そこまで価格を出せず、売り切れなかった金融機関が減損を迫られることになる。
僕には75兆円の絶対額の多寡は断言できないが、この仕組みの根源的な狙いは、その様なメカニズムを金融機関に呈示することで、それぞれの金融機関に自力での資本調達をインセンティブ付けすることにあると思われる。このメカニズムは、政府が、「最も体力のある金融機関が出せる損失以上には不良債権価格は落ちません」と呈示するのと同等だから、それぞれの金融機関の今すべきことは、とにかく最も多くの資本をかき集めることになる。僕は、直感的には、75兆円は十分ではなく、一部の金融機関は売り切れずに減損を出し、その資本不足を政府が公的資金で最終的に埋めることになると読んでいるが、そこに至る過程で、各金融機関をして資本調達に奔走させておけば、投入すべき資本額は極小化させられるのである。
この様に資本の制約を実質的に価格にビルトインさせて、価格が資本の余裕以上にオーバーシュートすることを防ぐ仕組みを担保する一方で、11月に迫る選挙を見据えて、金融危機を防ぎつつ一見フェアに見えて選挙権者に説明できる内容とするという、なかなか見事な目論見が、時間が無い中でよく作れたものである。この辺の米国政府の金融リテラシー、民主主義リテラシーの高さは、素直に賞賛すべきではないだろうか。