欧亜臭魚考

 最近、臭い魚を立て続けに食べた。1つはバカリャウであり、1つはハムユイである。バカリャウってのはポルトガル料理で、鱈の塩漬けである。カソリックでは、マルディ・グラの翌日からイースターの前日まで、かつては鳥獣の肉を避けた為に魚を食べる様になった。バカリャウは、その名残の代表的な一つである。バカリャウはスペイン、特にバスク料理にもあるが、ポルトガルとは若干調理法が異なる。今回食べたのは、バカリャウ・ア・ブラス(Bacalhau a Bras)、要は塩漬け鱈を玉葱と馬鈴薯と卵で炒めたもので、これは典型的なポルトガル料理である。スペイン料理屋で出てくるのは、大抵はバカラオ・アル・アホアリエロ、アホ(ajo)というからにはニンニクであって、アリエロというからには旅人にとってはペルーの乗用驢馬引きだが、後者はおそらく関係なく、塩漬け鱈のニンニクトマト炒めである。ま、スペイン料理屋でポルトガル料理が出てくることもままあるので、細かいことを気にする必要はあるまい。

[Panasonic LUMIX LX3 / 24mm F2.0]

  • エントリ書いてから思い出したが、バカリャウ料理は写真撮ってなかった。これはその後に出たカタプラーナという鍋。味は材料が同じだからまるでアクアパッツァである。関係無いついでに、そん時のデザートのババロアの写真も載せておく。何でも恥を捨てて撮っておくべきである。


 今日では棒鱈を食べたことがある人は余り多くないだろうが、バカリャウの味とはやたら塩味が聞いた棒鱈と思えば間違いない。よって、何の料理の中でもやたらと自己主張する臭い魚である。人間というのは元来悪食であって、異なる食文化でも順応できる動物だと思っているが、こと発酵食品についてはなかなか生まれ育った文化を脱しきれない部分はある。それなのに、日本人が発酵食品たるバカリャウを嫌わないのは、おそらく日本の味である棒鱈と共通する所があるからであろう。
 さて、もう一つはハムユイである。ハムユイと書くとハガユクてムズムズするが、漢字ではあっさりと咸魚と書く、広東料理の食材である。ざっくり言えば、イワシの塩漬けの乾物だが、これも臭い。食したのは白金の名店ロウホウトイ。広東では結構メジャーで、ハムユイチャーハンなんてのは、尖沙咀のチョンキン・マンションに泊まるバックパッカーどもの主食ともいうべき食べ物だが、何故か日本では余りお目にかからない。

[Casio EX-FC100 / 37mm F3.6]

  • 何がなにやら判らぬ茶色の料理だが、ハムユイは確かに入っている。しっかし、このカシオのカメラは、ゴルフのスイングチェックには適したスローモーションカメラだが、レンズが暗く、手ぶれ補正が効かないので、室内撮りはいつもヒヤヒヤ。しかも色のり悪し。なんとかして!

 広州なんぞに行ったりすると、最近は某市場における「猫の湯むき」とかの激しいアトラクションは近代化と共に消えてしまったので、すること無く文字通り広い街をブラつくことになる。そうすると、きっと食用ワニを店の軒先の生簀に囲うアグレッシブなレストランの先の乾物市場に行き着くことだろう。そこの匂いの源泉が、ハムユイである。味的にはバカリャウとアンチョビの間をとってナンプラーを風味に使った感じ、と言ってもきっと伝わらないだろうが、そんなとこである。バカリャウと同じ塩漬け魚でも、バカリャウの臭みはレバー的な欧州の臭みであり、一方のハムユイは濃厚なアジアの匂いを身にまとう。ハムユイの濃い味を舌に乗せれば、アジアが鼻先に漂いだす。そして、やおら目をつぶれば、チョンキン・マンションの一室で蒸し暑い空気にうだった日々が匂いと共に鮮やかに蘇る。しかも、その日々の名残惜しく目を開いても、目に入るは当地香港と見まごうばかりのボロい建物で全く違和感なし、それがロウホウトイの何とも素敵な所である。

[Casio EX-FC100 / 37mm F3.6]

  • 杏仁豆腐もロウホウトイの素敵な所の一つ。今や少数派の固形系。