武富士会社更生法考

 武富士会社更生法との報道が出ていた。消費者金融の中堅以上では、アエルもクレディアも民事再生法だったが、なぜ会社更生法かと考えてみると、中の人の苦労が偲ばれる。正しい意思決定への正しい第一歩なのだろう。月曜の株価は勿論ストップ安ということで、もともと値段が付いていたことからすれば市場に意外感はあったのだろうが、アコム・プロミス・セゾンと並べてみれば、武富士の株価パフォーマンスが直近悪いことは一目瞭然である。

  • ノンバンク3ヶ月株価推移


 これは3か月のチャートだが、1年でもアンダーパフォームしているのは変わらない。9月14日以降、他の貸金業の銘柄は跳ねているが、武富士への影響は限定的だ。これからしても、市場は織り込みきってはいなかったが、ある程度話は漏れていた or 想定されていたのだと思われる。
 会社更生によって武富士は身軽になる。ただ、過払債務をチャラには出来なくて、先行事案だと、民再やって決めた弁済率を後から過払い請求してくる客にも適用して払う様だ。過去事例からすると5-20%位である。要は、これまでは100万円過払い債権があったのが、会社更生法後は債務カット率に応じて減額され、それが15%なら15万円しか支払われなくなるということだ。法律的には、更生法時に債権の届出をする必要があるから、その後事後的に来る過払い請求客の債権性は無いように思うが、そこは救済される実務が出来ている様である。
 現在、過払請求の状態は高原状態だ。依然として各社ともに減る気配が無い。

  • 大手四社の月次過払支払動向

  • 各社開示資料よりちゃちゃっと。

 これを見ると、武富士は月平均で70-80億のキャッシュアウトをしている。年間では1000億弱。貸金が5000億まで縮小した会社にこの支払はきついにきまっている。というか、どう考えても倒産は時間の問題であった。倒産によって、この膨大なキャッシュアウトが、例えば15%とかにカットできる。それ位までカットできれば、何とか資金は回るのだろう。
 その一方で、倒産されると現在CMまで打って過払い請求をじゃんじゃんやっている債務整理系の弁護士は困ることになる。これまでと同じ労力で得られる対価が武富士だけ10%とか20%とかになるのである。そうすると、ローファーム的には他の会社への過払い請求を重点的に取り扱うという方向に行くのが費用対効果の点では合理的である。また、倒産すると債務カットになる事が知れ渡るから、駆け込み的に生きている3社に返還請求が集中する可能性は高い。これらによって、“四天王”の残り3社に過払いの波が押し寄せることになる。そして、特に9末にADRの期限が切れるアイフルが注目だが、この結果3社の中で次の倒産が発生したりすると、残存者の負担感は更に増すことになる。
 独立系のアイフルは言うに及ばず、プロミスも三井住友にとってみれば持分法適用会社に過ぎず、法的には支える義務は無い。また、もともとプロミスは独立系だったから、借入の三井住友への依存度も低い。過払い請求だけであれば、弁護士サイドの事務処理能力もあるから、金額的にもある程度読めるとは思うが、そこにメイン寄せが加わって負債がスクイーズされると、三井住友も支えるには覚悟がいる金額になる。
 過払い金問題は昔からある問題なのだが、2006年のみなし弁済を否認する最高裁判決が問題を大きくする契機となった。これはアイフルの子会社が負けている。また、借入の年収上限が入った改正貸金業法が成立したのも同じく2006年の年末である。これは大変厳しい政治的措置だが、その年に騒がれた、アイフルによる恫喝的回収による全店営業停止処分が影響したと想像する。その後は厳しい世論・政治情勢を反映してか、時効にしても最高裁で業者側に不利な判決が相次いだ。四天王の一人の不始末が、アコム・プロミスを初めとする業界全体にも大きなインパクトを与えたのである。そして、昨日最大手だった武富士に破綻の報道が流れたのだが、法律とその解釈・判例という金融事業の基礎的条件が激変した以上、残りの3社も、一旦倒産して、過払い債務の一部カットし、今の基礎的条件に合ったバランスシートでの再出発を志向するのが本来の流れであろう。それが、3社の内2社はメガバンク系列になっており、アコムは「三菱UFJフィナンシャル・グループ」、プロミスは「三井住友銀行グループ」と銘打って営業したりしている。系列消費者金融の破綻が信用上難しいなら、親のメガバンクは相当の負担を迫られる事になる。
 支援をするにせよ、倒産して投資元本がおじゃんになるにせよ、M&A的には銀行は消費者金融の買い時を間違えたのだと思う。ゴルフ場と同じで、更正法か民再やって債務カットした今が買い時なのだ。規制業界のM&Aはかく難しい。前段に、過払い金問題を大きくしたのは2006年の最高裁判例だと述べたが、これはみなし弁済と言われる、例え利息制限法の金利を超えていた金利であっても、借り手が任意に払っているなら有効な弁済とみなすという消費者金融側の拠り所を、期失条項があるなら強制であって任意とは言えないと全面否認したものである。この判決で、消費者ローンの上限金利超過分は全て違法という事で確定してしまい、以降消費者金融は、過払い請求に対してATMの如く無抵抗にキャッシュを払わざるを得なくなった。そんな大きな判例が出たのは2006年の1月なのだが、それに先立つ2004年2月の判決で既にみなし弁済を無効とする補足意見が出ており、業者側の負けの兆候は出始めていた。アコム創業家なんかは自らの業界のリスクを見切ったのか、2004年の4月に三菱にうまく一部の株を買わせ、リスクを押し付けて逃げている。同じように2007年には三洋信販のオーナーが同じ業界のプロミスに自社を売却した。そのプロミスの創業家も、2004年6月に約500億で持株の一部を三井住友に売りつけており、また今の事態に先立つ半年前に一部株式を市場で処分している。業界内でも、食わせて食うみたいな化かしあいの極地である。
 M&Aの視点でもう一つ付け加えるなら、更に3メガバンクの内、もともとグループだったオリコはあったにせよ、唯一消費者金融に積極的には手を出さなかったみずほが、今回は買い時としてスポンサーに名乗りを上げるかは注目したい。消費者金融はやらないと言っていた時期もあったが、最近の深夜帯での自行消費者ローンの宣伝の嵐からして、事業としては取組姿勢に転換している筈だ。待つという賢さが有ったがゆえの積極的無策だったのか、単なる自前主義なのか、これで判る筈だ。