広告とM&Aを人が繋ぐ。

気合と実際

さとなおさんが書かれて話題になってた一件に便乗して。

○シャープやパナソニックやソニーの凋落を、広告人や広告会社はもっと恥じるべきじゃないかな

さとなおさんの論旨は題名に尽きている訳ですが、第一印象として、気合の入れ方としては正しいけれども、果たしてそこまで広告業界はクライアントに深く関与できるのかという疑問は拭えません。当業界における、銀行が産業を育てる的な理想像の過大さと似たようなものを感じる訳です。どう銀行が頑張っても産業の方が頑張らないと育たないだろ。それなのに、金融庁謹製の「金融検査マニュアル・監督指針」として、中小企業の経営支援に関する取組方針・態勢整備・取組状況を定期的に政府当局に確認されてるのが銀行界のここ10年です。あれは、今月は金利オプションですと押し売りに行く営業担当者の気合の入れ方としての物語であって、それ以上では無いというのが実感であります。

ソフバンの奇跡

 ただ、中には銀行や銀行からの出向者が割と企業に貢献した事例もある訳でして、完全に無理とは言い切れないのが難しい所ですが、特殊な事例なのは間違いないでしょう。その特殊な事例を広告業界で探すんなら、ソフトバンク・モバイルだと思います。ライバルよりも繋がらず、端末もシャープ以外はイマイチで、見どころは少し安い位だったボーダフォン改めた頃のソフバンが、今や胸を張って一番繋がると称し、兆単位の借金も返し、純増数で長らく優位を保つ様になった原動力は、一にはiPhoneでしょうが、二には白戸家シリーズをはじめとする広告の上手さでしょう。家電や情報機器よりもずっと差別性に乏しいインフラビジネスだから、マーケティングに拠る所はそもそも大であります。2ちゃんねる携帯板ではスペックや利便性に事実劣っていたソフバン使うのは情弱という整理でしたが、その情弱=マスをきっちり捉えて、シェアを伸ばせたのは広告を初めとするマーケティングの力です。これが無かったら、米国での買収が成功すれば日本に本拠のある携帯電話会社で一番大きくなるなんて今の発展は無かったと思います。ソフトバンクが最初に年度の純増一位になったのは2007年度(2008年3月期)ですが、ホワイト家族24で白戸家が登場したのは2007年6月でそのまま2007年のCM好感度1位を取り、iPhone3G発売が2008年7月であります。

或る分断

 では、パナソニックやシャープとソフトバンク・モバイルで広告の力に差があったとして、それは広告代理店のせいでしょうか。答えは否だと思います。ソフバンに良い提案が行って、パナやシャープにはクソみたいな提案が行くなんて事は有りません。これは、クライアントサイドのマーケティング方針と、リスク許容度の差でしかない。だったら、そこを広告代理店が変えられないか。これが次の問いだと思います。しかし、変わる様な説得力のある提案を広告代理店が出来るかと考えても、難易度は高いと言わざるを得ません。大企業というのは何やるにせよ根拠が必要な組織ですが、何しろ尖ったクリエイティブには根拠が余り無いので、説得力は尖ったクリエイティブそのものの力に頼る事になり、それで大企業サイドが説得されてる絵姿は想像できません。しかも、広告代理店の方も、その尖ったクリエイティブがもたらす結果に自信を持ててる訳では無い。なぜなら広告代理店は、広告キャンペーンの結果の実販データを、普通は知らないので、PDCAをまわす事で貯まるノウハウに乏しい構造になっているからです。過去数年間、広告代理店と仕事する機会がそこそこありましたが、大手代理店のエース級の種牛チームから提案を受けても、ここは毎回感じる所です。ビジネスの話じゃなくて、広告の話をしている感じというか。なので、尖った提案に根拠を持たせようとすると、成功した事が誰しもに知られている有名事例からのアナロジーが増え、これが結果としてどこかで見た事のある、尖っている様で尖っていないクリエイティブに繋がります。

広告の力はやっぱりある。

 ただ、僕は広告や広告代理店の力を否定している訳では無いです。マス広告にはまだまだ力がある。少なくとも最もイマイチな携帯会社を純増一位に持ってく程度には。それが更に、さとなおさんが言う様な一皮むけ方をするには、何がカタリストと成り得るか。僕は、世の消費財メーカーや小売と比べて高めの広告代理店の給与が切り下がり、また消費財メーカーや小売のマーケティング職の給与が少なくとも、P&Gの同種の職程度には切り上がり、代理店マンとクライアント企業のマーケティングが当たり前の様に行き来する時代になる事かなという気がしています。こうなれば、広告のPDCAを回した人間が増えて、今よりはクライアントに深く関与する広告が出来たり、より尖ったマーケティング方針がクライアントサイドで立てられたりするんじゃないでしょうか。こういう行き来は、外資や新興企業では、それなりにありますが、日本の広告出稿量トップ20とかに入る大企業ではまだまだ少ないのが現状でしょう。
 これは、給与の問題でなく、そもそも金融業界が多産多死である事から、一定数のM&A関連の人材が金融業界を辞した後に事業会社に移り、M&Aの専任担当者となった事が、円高と並んで日本企業が買いサイドとなるM&Aが増えた一因であろう事からのアナロジーです。うむ、やはりどうもアナロジーが根拠だと尖った内容にならない様です。自ら実例を提供させて頂いて、本日の締めの言葉とさせて頂きます。ご静聴ありがとうございました。