人の表情、魚の表情

旅行に行くと、まず大体訪れるのが市場である。その国の表情が最もビビッドに伝わってくる場所だからだ。

今回も例に漏れず、チャガルチ市場という釜山の築地みたいな場所を訪れた。何回か釜山には来ているのに、後ほど田舎に魚を食べに行くからであるとか、せわしなくソウルに向かう必要があるからとか、幾つかの理由でここ釜山で魚市場に行ったのはかつて無かった。

ここはなかなか大きな魚市場で、築地程では無いが、築地の場外市場くらいの規模はあるだろうか。ロンリープラネットには、魚の強烈な臭いに耐えられれば行くと面白いと書いてあったが、それ程強烈ではない。これは魚に慣れた日本人だからそう思うのかも知れないが。

やはり市場は豊かな表情を持ち合わせている。世界の市場の中には、殺気立った、刺すか刺されるかの緊張感を持つ所もあるが、ここは非常に穏やかだ。

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場内市場の全景。色とりどりのトレイが全体としてみると、韓国の寺院の色彩感覚と全く共通する趣を持つのが面白い。

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交渉も世間話の延長線の様な雰囲気で、のんびりしたものである。売り手は割りに若い。20代だろうか。

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市場の人と交渉して魚を買う事にした。平目・烏賊・アイナメを刺身にしようというので有る。見事な手つきで平目を掴んで外に出す。全部で2万5千ウォン。同行人が持っていたガイドブックに載っていた相場からは少し安めだが、もう少し交渉できた気もする。

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蛸もアジュマの手に掛かると饅頭を扱う様に右に左にである。諦めているのか墨も吐かない。

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市場の外の港では、船用オイルが流出したのか、除去作業が行われていた。白くて分厚いタオルの様なものを吸収剤として海に投げ入れて、それを一個一個拾い上げるという気の遠くなる様な作業で有る。

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市場の風景では無いが、釜山タワーに行った時に出会ったカップル。この制服は軍隊なのだろうか。仲良さそうに歩いていた。数年前の韓国は制服を着てデートというのはレアだったが、やはり徐々に常識の規制緩和が起きているのだろう。



さて、人と同じ様に魚も色々な表情を見せるのが市場である。釜山の魚はなかなか間抜けな顔が多い。

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こんだけいい天気だと干し魚も呆けてしまう訳ですな。

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上記の様に干されるから、こんな表情になってしまうのだろう。間抜けなお顔になったが、魚に罪は無い。

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知る限り、魚を水槽に入れて売るのがポピュラーな手法として定着しているのは日本と韓国だけである。生魚を食べるからだろうか。普通はこういう風に山積みなのが、世界の市場である。何となくほっとする。

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貝も百花繚乱といった風情である。日に反射して不思議な色合いだ。

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こういうのを見て、美味しそうと直感的に思うのは日本人だけだろうか。考えようによっては、死して屍さらすにしても、こんなさらし方はイマイチだ。

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石鯛がこちらを睨む。肝の据わった野郎だ。

散歩は飽きぬ。