財務レバレッジ・アゲイン

 今日、大手投資銀行主催のセミナーに行った。内容は、負債と資本の境目にあるメザニンとかハイブリッド証券と呼ばれる分野についてである。中身自体は極めて興味深かったのだが、最も印象的だったのは、「この分野は、資金調達では無くて、資本調達と考えてください」というプレゼンターの一言である。
 その通りかもしれない。既存株主の希薄化を避けつつ、あわよくばクーポンを損金算入しつつ、自己資本を拡充する為にひねり出されたのがこの種の証券だ。この種の証券が今後ホットになると見ているから、この様なセミナーを行ったのであろうし、事実欧州でも日本でも発行が増えている。それで、なぜこの種の証券がホットになるのかというと、上記の議論を踏まえれば、自己資本拡充のニーズがあるからだ。そして、なぜ自己資本を拡充しなければならないかと言えば、その背景には行き過ぎた財務レバレッジの増大の是正があるのだろう。
 バブル崩壊後、日本企業は一貫してフリーキャッシュフローを債務返済に回し、財務レバレッジを低下させてきた。これはストック調整と呼ばれる資産サイドのリストラとバランスした動きである。それがこの所の好景気と中進国市場の拡大に伴って、大規模な設備投資に動く例が増えている。本日のエルピーダメモリの台湾への800億投資というのはその一例だ。また、競争環境の中で国境の持つ意味合いが低下し、グローバルな競争にさらされる様になったので、海外企業の買収事例も増えてきた。これらの資金ニーズは単年度のフリーキャッシュフローでは賄えないから、負債調達して、財務レバレッジは増大することになる。こういった動きはまだまだ一部に過ぎず、日本企業全体が財務レバレッジを上げているとまで言うのは早計に過ぎるが、資金調達して果敢に攻めに出る企業が徐々に増えてきているのは間違いない。
 負債を増やすというのは、ある程度までは株主にとっては良いことである。企業は株主から集めた資金に、負債で調達した資金を併せて事業に投資し、儲けを得る。その儲けから金利と税金を払った残りが株主のものである。従って、同じ額の資金を使うのでも、負債調達の比率が高ければ、株主にとってはより少ない投資でリターンが返ってくることになる。ただ、やり過ぎると景気変動の波とかで業績が落ち込んだときに、会社が負債を返せずデフォルトして、株主は投資持分がパーになる可能性が増える為、この資本効率とリスクが最適にバランスする所が最適財務レバレッジという事になる。
 という訳で、果敢に負債調達して投資した企業は、財務レバレッジがバーンと上がるので、一部資本に振り替えて、安定度を増したい欲求にかられる事になる。これを昔の様に時価発行増資とか、エクイティファイナンスしてしまうと既存株主にとっては一株あたり利益が希薄化して全く嬉しくない。最近はこういう動きに対する株主の眼が厳しい為、企業は中間の道としてハイブリッド証券とかメザニンとかというのを検討することになる。このように、企業が負債調達して攻めの投資に出て来だした事の証左が、この種の証券の発行増加であろう。日本も長い財務レバレッジ低下の時代をようやく終えて、資金の返済から調達への時代の境目にいるのかも知れない。また、こういった既存株主に配慮したプロダクツが出たり、そもそも安易なエクイティ・ファイナンス(昔は株は金利を払わなくて良い永久資金等と言われていた)に頼らなくなった時点で、随分と日本にも株主資本主義が根付いたものだと思う。