上場維持とアンチ外資政策

 全くもって驚いた。さすがに僕は背後の規制当局による「シティTOB潰し」の意図を感じざるを得ない。これについては後述する。

日興コーディアル株の上場維持、東証が発表

 不正会計問題のあった日興コーディアルグループ株について、東京証券取引所は12日夕、記者会見を開き、日興株の上場を維持するとともに、監理ポストから外すと発表した。

○Yahoo!News

 想定外の内容になったのは、日経が早とちりしてポカしたのか、或いは直前で結論が変わったのかどちらかだ。金融絡みの記事でここまで誤報が出回ったのは余り記憶にない以上、僕は後者の可能性の方がやや高いと感じている。その意図は、日の丸金融機関の保護であろう。バブル以降、日本の銀行はひどい状況に直面していたが、それでも外資が日本の銀行を買収できた事例は一つもないことは規制当局の意志を雄弁に示す。ゆえ、3大証券会社も外資買収は許さないという意志が当局に有っても少しもおかしくない。

  1. 上場維持発表 ←イマココ
  2. 上場廃止による流動性低下、或いは信用不安による収益減を嫌って下がっていた株価が急上昇
  3. 結果として株価がTOB価格を大幅に上回る
  4. TOB不成立
  5. 課徴金だけで元の状態に戻る
  6. (結局、独立性を保つか、みずほグループと接近??)

 この話は、本来会計士OKと言われたので、アグレッシブな方の会計処理をしたら刺されたという事例に過ぎないので、悪質性においては、他の上場廃止事例と比べれば低いのは間違いない。なので僕は、そもそも資本主義の番人たる東証が世論なる非効率的なるものに阿って上場廃止という結論を出すことは如何なものかという感じが個人的にはしていた。よって、妥当な結論が出たのは喜ばしいのだが、それならこんなに大騒ぎすること無かったんじゃないか、という気もする。その上、日興も三洋もで4大監査法人が3大になってしまって会計士業界は上に下に大騒ぎなのだから、どちらかというと実務レベルで出した方向性で物事は進んでいたものの、最後の最後で政府の極めて上層部からの介入により大逆転になってしまったがゆえに、この様な顛末になった印象を受ける。
 また、シティのテンダーオファー(TOB)価格は1,350円だが、今日の終値が1,404円、揃いも揃ったヘッジファンド勢が主張する株価が2,000円である事を考えると、通常ではシティは相当価格を上げないと、そもそもTOBに応募する株主は殆ど居ない。これは上場廃止だと流動性無くなるよ、というスレッド(脅し)と経営陣の賛同表明の上に成り立っている価格である。よって、規制当局がシティを気に入らなければ、何もアメリカから睨まれる様な裏工作をしなくても、上場維持という結論さえ出せば、上場廃止ディスカウントが無くなって、彼らのスレッドを無意味にできる。上場維持されれば、株価は数ヶ月前の水準である1,500-2,000円のレンジに入ってくる可能性は高く、価格を大幅に引き上げないとTOB成立は困難になるだろう。加えて、価格を上げられるかについて言うと、今でさえ日興のPERは15倍前後と高く、シティのPERが10-11倍前後である事を勘案すると、シティにとってもともとダイリューティブな投資であって、相当のシナジーが無いと更に株価を上げていくのが難しいのは想像に難くない。
 真相は闇の中だが、果たして国内の金融産業の育成発展という観点では、市場を育成するか内資企業を育成するか、どちらが正しいのか、それを政府として確としてビジョンを持つべきと改めて感じた。僕は、日興単体の問題としては、上場維持の方が法や規則上は妥当だと思うが、市場育成という観点では、外国マネーを掴んでいる外資金融機関のプレゼンスが日本で高まる方が、日本の金融市場と、それに付随する産業と雇用の発展という観点では良いと思っている。例えば、シティのアジア・パシフィックの本部が日本に有るとは聞いたことが無いから、日興買収によってシティグループの中の日本のプレゼンスがえらい上がるとすると、本部をシンガポールやら香港やらから東京に移してくる可能性が有るし、もっと積極的にやるなら、それを裏の条件として買収を認めるとか、そんなアイディアも有るかもしれない。
 この辺の政策の考え方についての僕の原則は、1ヶ月位前にこのエントリに書いた通りである。

○2007/2/19 投資立国