レイオフ相次ぐ

 ここんとこ投資銀行レイオフの話が相次いでいる。とある所ではIBDのエグゼキューションチームの中でVP以上が3人しか残らなかったとか、また別の所では、クレジットのプロップデスクがチームごと消えたとか、暗くなる話ばかりである。バイアウトファンドはその点若干ましで、ものの本にある通り、ファンドの収入は運用に関与している資産に対して何%というものと、儲けが出てEXITできると成功報酬で儲けの何%というものに大別されるが、後者は金融市場が混乱して株価が下がるとイマイチなものの、前者は固定であって余り景気と関係がない。加えて、株が下がる時は原則投資の好機なため、むしろ仕事は忙しくなる傾向がある。要は、ファンドの収益という観点では、株価と順相関する(株価が高い時にEXITすれば儲けが大きい)が、繁忙度という観点では、株価と逆相関するので、こんな時期でも仕事は山の様に、ほんとに高山の様にあって、レイオフしたらせっかくの仕込みが出来なくなる。
 ほなファンドの方がクビになりにくくて良い仕事なのね、と言うとそうでもなくて、買えば収益が上がるという訳ではなく、価値を上げてEXITしてなんぼ、という商売でなので、自分の仕事の成果は3年とか5年とかして初めて判然とする。従って、いまいち単年度の個人の業績が分かりにくく、よって単年度にどっかんとボーナスが出るわけではない。どちらかというと、業績に対して賞与で報いられるというよりは、貢献や能力に対して昇進の速さで報いられると考えた方が正しい。社内の「位」によって報酬水準が決まる為、高い報酬を得たかったら、早く昇進して位を上げるしかない。この辺は、弁護士やコンサルティングファームの給与体系が近いかもしれない。まとめれば、儲かった時は賞与もどっかんと出て、儲からない時は貰えるものが減り、悪くするとレイオフ、という投資銀行と、儲かったか儲からないかが判然とせず、賞与もそれほど波が無いバイアウトファンド、という事で、このどちらがいいかはこれは個人の好みの世界である。なお、なべて平均をとれば、雇用者のキャッシュフロー変動リスクの高い投資銀行の方がリスクプレミアムがのって、報酬水準は圧倒的に高いと思われる。この辺は経済学の定理通りに収束している。
 そんな訳で、こういう時期の外資投資銀行は大変である。それで、前のテックバブル崩壊の時の大レイオフ時代には、随分と人が日系の銀行系証券に移ったものだが、今回もそうなるかしらん、と思っていたが、29日にみずほ証券が従業員の15%にあたる300人を削減し、SG&Aを20%カットとすると発表していて驚いた。サブプライムで4,000億の損失を出しては人員削減も止むを得ないという事だろうが、15%とは外資と比べても相当ドラスティックな数字である。希望退職を募るそうだから、形式的にはレイオフでは無いだろうが、実質的には肩叩きが行われて、指名解雇に近い形になるのだろう。日系も変わったものだが、果たして業績が良い時にはそれなりの賞与で報われていたのだろうか。金融はキャピタルの規模と人の質が勝負のビジネスだが、アップサイドは外資系に及ばず、ダウンサイドは外資系並にあるってのでは、今後良質な人材が集まるのか、ひとごとながら心配になる。
 また、みずほは投資銀行宣言というメッセージを打ち出し、米国で株や債券絡みの商売をするのに都合の良い金融持株会社の認可も得て、この分野では野村の次くらいに日系では進んでいた金融機関であった。経営戦略として明確に投資銀行ビジネスを重点分野として位置づけていたと思う。それが、損失を出した証券化関連にとどまらず、投資銀行ビジネスの中核たるみずほ証券全社にブレーキをかけるとなると、これまでの戦略とは全く逆である。結果として、サブプライム関連の損失に加えて、これまで投資銀行分野の育成に使ってきたお金も無駄になる可能性があるのではないか。この分野から撤退するとか、或いは逆張りでめげずに頑張るとかのクリアな方針ではなく、身を縮めつつ細々やってきます、というのは経営的にどの様にメークセンスするのか、僕が投資家なら経営陣に聞いてみたい所である。
 英国4メガの一角であるロイズTSBの様に、投資銀行ビジネスで米系と競ってもしゃーないとSMEと住宅ローンに特化するのも一つの見識だし、ドイツ銀行やスイス系の様にあくまで投資銀行でとしてバルジブラケット入りを目指すのも、また一つの見識だ。みずほは、かつて一兆円大増資を敢行して見事銀行を復活させ、経営的な手腕で言ったらむしろ優れていると思っていた。しかし、経営を二言で言えば、選択と集中ということだろうが、果たしてこの施策は何を選択しているのか、今回の経営判断の質については疑問符を付けたい所である。