Panasonicによる三洋電機買収

 パナソニックが、三洋電機を買収する方針を正式に発表し、今後三洋のデューディリジェンスに入る様だ。ただ、GSやSMBCなどの大株主との間の株式買取協議はこれからの様である。
 バイアウトの常識からすると、奇妙なプロセスである。株主が分散した普通の上場企業の様だ。株主が分散していれば、当事者同士である程度話をまとめた後、株主総会で決、というプロセスになるが、三洋電機の議決権のスーパーマジョリティは金融3社が握っている。こういう支配株主がいる場合は、当事者同士で握っても意味がないので、株主と買い手との交渉になる。よって、支配株主がいる会社のM&Aは、買い手と支配株主が、拘束力が無い緩いベースでも価格を握ってから普通プロセスが進むことになる。それなのに、今回は当事者同士が握って、支配株主を押し切ろうという風にすら見える。パナソニックが余りM&Aをやらない会社だからといって、常識を知らない、という事も無いだろうから、交渉戦術なのかもしれない。
 三洋電機時価総額はいま3,800億だが、金融3社の優先株3,000億が普通株に転換する前提なので、単純には計れない。今の普通株は18.7億株だが、希薄化後は61.6億株になるのだ。今の株価200円が希薄化を織り込んでいると考えれば、実に1.2兆の時価総額ということになるし、織り込んでいないと考えれば、株数3倍になれば株価は1/3ということで、時価総額は変わらず3,800億である。この希薄化を考え出すと話がややこしいので、ファンダメンタルなアプローチをすることにする。今期の利益350億が固いとして、PER15xで見ると、5,250億が想定時価総額ということになる。これが金融3社と一般株主で分け合うべき株式価値とすると、金融3社の希薄化後の議決権は約70%だから、3,675億相当で売れるということだ。もともとの投資元本は3,000億だから、3,675億というのは3年間ホールドして20%のリターンということで、投資としてはいまいちである。しかも、今は輸出企業の株価はメタメタで、パナソニックのPERも11.5xとひどいものだから、15xという前提はまだ楽観的かもしれない。
 株主的には今の円高・株価下落という環境下、低いリターンで売りたくは無いだろうが、さりとて今後ホールドしてリターンが見込めないのであれば、キャッシュアウトして、今とっても割安になっている不良債権や不動産にアセットを入れ替えるのが正しい判断だろう。今の所パナソニックペースで進んでいる様に見える交渉だが、どういう値段で落ち着くのか、注目である。
 最後に、もし金融3社が売らないという判断をして、ディールが流れたら、それは三洋電機の中身を知り尽くしたインサイダーのプレイヤーが、今スーパーディスカウントで出回っているアセットへの投資機会より、三洋をホールドした方がリターンが高いと考えた、という事を意味している。論理的には株価は上がってしかるべきだが、モメンタム的には株価は大幅に下落するだろう。もし、こういう展開になり、希薄化を織り込んだ安値水準まで来たら、それは絶好の買い場だと僕は思う。
 逆に幾らで有っても妥結をしたとしたら、それもインサイダーの三洋に対する見方を雄弁に語っている。Stand Aloneである限り、そこから年ベース20-30%という投資会社のハードルレートを上回るリターンは無いと見ている、ということだ。