JALに貸す意味

 日本航空=JALに対する日本政策投資銀行の「危機対応融資」なる1,000億円規模の融資に、一部政府保証が付く様だ。
 せっかく改善してきた市場センチメントを悪化させない為に1,000億円使った様に見える。もっと言えば自民党による選挙対策かもしれない。選挙前にでかい会社が突発的にコケて、株価暴落は確かに望まれないシナリオだろう。
 JALは確かに大きな会社で倒産すればインパクトはある。財務的にはこんな感じの会社だ。

総資産:1兆7,500億
純資産:1,750億
有利子負債:8,000億
売上高:1兆9,500億
営業利益:▲500億

 ただ、救いようが無く巨大な訳では無い。三菱電機が総資産3兆なので、総合電機よりは小さく、自動車で言えばマツダ三菱自動車の間である。医薬品のトップメーカーとも同じ位の規模である。他の業界であれば、これ位の規模の会社が危機に陥ったからと言って、救ったかと言うと疑問な規模である。また、自動車とかと違って、JALが有るから存在する日本の産業の裾野が広いとも言えない。リージョナルジェットとか、今後育てていく分野はあるのだろうが、それならJALに1,000億使うより、直接リージョナルジェット開発コンソーシアムにお金を出した方がベターであろう。
 JALは過去4期中2期が赤字であり、4期の利益の単純合計はマイナスになる。EBITDAで見ると600-2000億円位のプラスではあるが、同時に設備投資も毎年1,000-2,000億円かかる模様なので、殆どフリーキャッシュフローは無きに等しい。つまり、この会社はバランスシートは大きいけれども、キャッシュフローバリュエーションや利益バリュエーションでは価値はゼロなのである。
 利益もキャッシュフローも価値もゼロの会社にキャッシュをあげても、それは赤字運転資金に使われて、1,000億がゼロになるだけだ。こういうレンディングは本源的なキャッシュフローや利益を稼げる様な施策とセットで初めて価値が守られるのである。
 その意味で、GMクライスラーを一旦破綻させて、過去勤務に対する年金債務等のレガシーコストを法的に強制力を持ってカットしたアメリカの施策は正しい。JALも、そもそもの不採算路線から撤退し、それによって浮いた分も含め、運行経費や整備も含めたトータルで見ると他社よりぐっと高い人件費率をカットしないと根本的な復活は出来ないだろう。現状は、労働者の自由意志に基づく組合があるから、ストされると致命的な法的エンティティではなかなか打てない施策だが、法的整理ならば、別会社で再出発し、退職・再雇用形式で全てやり直すことで可能になる筈である。しかも、米国でも欧州でもエアラインはバタバタ倒産しては復活しているので、どちらかと言うと、倒産処理の事例豊富な業態だと思われ、倒産処理に伴う不測の事態も、ある程度コントローラブルであろう。
 また、JAL外部の考慮ポイントがあるとすれば、報道ベースで日本政策投資銀行JALに3,000億円、みずほコーポレート銀行が900億円の貸金がある様で、いま倒産されると、この辺りがきつい影響を及ぼす可能性はある。2行とも自己資本が2兆とか3兆あるので、致命的なインパクトとは思えないが、自己資本毀損による信用収縮への予防的措置、というのは一つ政策目的としては有り得るのかもしれないが、それだけでは資金を入れるに足る理由たり得ないだろう。なぜなら、同じお金を破綻後に銀行が資本不足ならそちらに注入するという手があるからである。
 さて、もっとでかいGMを周到に準備して破綻処理したアメリカと、何となくJALを生き長らえさせた日本。アメリカも日本の失われた十年の金融行政と大差なく、当時非難されたのは不当だとか、そういう議論も出ているが、依然として現実に即した対応という観点では、アメリカに見るべきものは多い気がする。
 最後に、もしこれが選挙対策の色濃い政策だとすると、自身への対策に1,000億とかの単位でカネが使える政権政党ってのは、なにげに大したものである。そういえば、図ったように選挙が近い時期に交付されることになった、定額給付金も貰いに行かなくては。