Day-4 エジプトのアラスカ

 朝が明けると、宿が手配してくれた砂漠ツアーへの迎えが来ていた。ガイド兼ドライバーの名前はハムディーと言う。車は勿論ランドクルーザーである。辺境を旅すれば、舗装道路を進むときはハイエース、未舗装道を進むときはランドクルーザーと世界の相場は決まっている。タクシーとかにはヒュンダイやら奇瑞汽車やらが進出しつつあるが、ハードボイルドな世界はまだまだトヨタと、あとメルツェデスが握っている。4WDを現地でチャーターして出る旅はおそらく6回目である。タンザニアのモシから4WDで出てサファリを泊まりがけで回った時を端緒に、ボリビアのウユニからラグーナ・ベルデを経て標高5000mのチリ国境でドロップして貰う(筈だった)旅や、ベニンとブルキナファソの国境でのサファリツアー、スリナムでの高地自然保護区へのツアー、後はベネズエラの自然遺産であるカナイマ国立公園に行った時か。何故か、アフリカと南米大陸だけである。今回は、人の話でなくて風景の話なので、写真が無いと伝わらないから、写真に解説を入れる形式と致したい。
Landcruiser
[NIKON D90 + TAMRON A13 11-18mm f/4.5-5.6 Di2]
 いきなり、ゴーストが出ている写真で不本意だが、こんな砂漠をこんな古めのランドクルーザーでガンガン分け入っていくツアーである。ランクルも、日本の狭い道を窮屈そうに走るより、性能を限界までこちらで発揮された方が本望であろう。しかし、カメラ軽量化対策で、世で一番軽い超広角レンズであるTAMRON A13を久々に持ち出してみたが、太陽が近い時はハレ切りした積もりが、いつも使ってるSIGMA 10-20mm f/4-5.6よりゴーストが出やすい。超広角はどうしても太陽が構図に入りやすいから、これだときついなぁ。
some historic inspiration
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 バフレイヤ・オアシスを出る所。クラシックな生地をモノトーンの老人が売っていた。あらゆるものが白茶ける砂漠には、黒い服装が良く映える。
Road after road
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 オアシスを出ると、所謂砂漠というより、どことなくアメリカ中西部の荒野を思わせる風景が広がっている。意外に起伏があり、そしてまだ舗装路を往く。
Traveler
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 暫く行くと舗装路を外れ、砂漠に分け入っていく。砂自体は黄色っぽいのだが、表面に黒い石が散乱しており、これゆえに全体が黒く見え、黒砂漠と呼ばれる。前を行く4WDとはコンボイを組んでいる訳では無い。たまたま居合わせた他のツアー客を乗せた4WDである。後からハムディーに聞いたら、冬のピークシーズンは、一晩で50-60台の4WDが砂漠に来るらしい。
after the festival
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 前だけ見てても気付かないが、ふと後ろを見たら、走った後に凄まじい砂埃が立っていた。風がそんなに吹かないので、砂埃がなかなか消えない。前の車とはかなり距離を置かないと、咳き込むことになる。
Black mountain
[NIKON D90 + TAMRON A13 11-18mm f/4.5-5.6 Di2]
 またもや小さなゴースト。これ位小さいと、カメラの背面液晶だと気をつけて見ないと見過ごしてしまう。このレンズは、この後カメラバックの重しと化したので、ポアだと思って、カイロで中古レンズ屋をそれとなく探したが、特に見つからなかったというのが後日談。その話はさておき、これがブラックマウンテンである。ここで軽いトレッキングを行って、山に登ってみた。じゃりじゃりして登りにくい山だったが、登ると黒い大地が広がっている。
Dry mountains
[NIKON D90 + TAMRON A13 11-18mm f/4.5-5.6 Di2]
 地球上とは思えぬ異様な光景が広がる。夢に出てきそうな荒野。これ以上荒野らしい荒野というのは創造できないかもしれない。
Japanese bohemian
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 ハードコアなバイクの旅人が、荒野を越えて、白砂漠を目指す。よく見ると、なんか見覚えのあるナンバーの姿形をしており、「豊橋」と書いてある様な気もする。この後、白砂漠への管理事務所で、彼が入場料に大きな金額の札を出したら釣り銭が無く、立ち往生をしている所でばったり出会って、両替をしてあげたが、聞けば、ロシアを越えて大陸を横断し、今度はヨーロッパから中東を越え、大陸縦断して喜望峰を目指すと言う。日本人にもハードコアな人が居るもんである。
Lunch in desert
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 シンプルなランチ。ドライバーのハムディーが作ってくれた。ボリビアのラグーナ・ベルデ行きの時は2名乗って、一人がドライバー、一人が壊れたワイパーを紐で動かす係兼コックだった。エジプトの方が多能工化が進んでいる。
Sand and Snow
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 風紋が美しい砂の上に白い石が混ざり始めた。いよいよ白砂漠の始まりである。
Calcium 1
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 白砂漠ってのは、昔々海の底だった所が隆起して出来ている。珊瑚なのか貝類なのか、或いは石灰藻なのかは判らないが、海の底で生物形成された石灰質の大地が、地上に出て風化してこんな形になったりする。辺り一面が白く、砂も石灰質由来なので白い。珊瑚で出来た南の島がホワイトサンドなのと理由は同じである。
Calcium 2
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 ここまで風化したのもある。巻き上がる粉塵にも質量があるんですな。質量があるから、下の方が風によって削られる。気の遠くなる様な年月を掛けて削られた下部が、人間が自分の名前を刻むことで更に削られている。
Egyptian Alaska
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 荒野の風景も地球とは思えなかったが、この風景も地球とは思えないおかしな風景。人呼んで、砂漠のアラスカ。確かに白いから雪原に見える。ボリビアの標高4500m付近で吹雪に見舞われたが、風が強い時に乾燥度の高い雪が舞うと、平たく降雪せず、手前の所の様に所々に固まって積雪するんだよな。ただ、雪原は奥の様にアナーキーに盛り上がったりしないけれども。
Camel on snow
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 ラクダを曳いている人に出会った。こんな荒漠とした所で、どこから来てどこに行くのだろう。ラクダは砂漠の船と言うが。
Big white
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 日が傾いてくると、地が白だけに色んな色が乗ってきて、表情が変わる。
White and Red
 昨日にも増して乾燥度が高く、クリアな夕焼け。白の大地。赤の地平線。そして群青の空。
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
Deko-Boko
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 少し経つと地上は闇に沈む。僅かに残る地平線の明かりに、石灰岩が生き物の様に浮かび上がる。恐竜が居た時分は、こんな風景がそこここに見れたのかもしれない。
Cook on the sand
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 ハムディーが今日の晩餐を焼いてくれている。ナチュラルに炭火焼きである。肉は旨かった。ガスより確かに旨い気がする。エジプトでも一部の店は炭火だったが、さらにディープに入って、西アフリカではガスが普及していないから、殆どの肉が炭火で焼かれていた。もともと、家畜もワイルドに育っているから、肉質も良く、堅めだが味があって旨い。
Desert Fox
[NIKON D90 + TAMRON B008 18-270mm f/3.5-6.3 VC PZD]
 夜。砂漠の狐が現れ、ロンメルばりのヒット&アウェイで直ぐに姿を消した。昼間はあの大地のどこに潜んでいるのだろう。
 この後、砂漠にテントを張って寝た。テントを張らずに満点の星の下で寝ることも可能らしい。ただ、冬の砂漠の夜は5度前後。ちょっと冷気を怖れた僕はテントを選んだ。しかし、借りたシュラフの中に、持ち込んだシュラフを入れて、その上にラクダの毛布をかけたら、暑かったのか、途中毛布と借りたシュラフを跳ね上げており、目覚めたら自分の夏山用シュラフだけになっていた。また、ブレスサーモのスノボ用靴下を持ち込んだが、これはやり過ぎで、足は燃える様に熱かった。夜の白砂漠は何の物音もしない。ハムディー曰く、一晩に白砂漠に来る50-60台の4WDはほぼ一箇所に集中し、そこは音楽を流すパーティとかも居て、大変煩いらしい。ハムディーとその仲間達はそこを避け、4-5台のみ各車十分に間隔を空けてキャンプしてくれた。結果、恐ろしく静かで、漏らした小声が夜空に吸い込まれていく様な真の沈黙の中で寝ることが出来た。シベリアのタイガに覆われた大地をシベリア鉄道で旅した時も、列車が停車すれば静寂が訪れたが、僅かに風が吹けば森が音を立てた。ここは砂漠で、僅かな風では砂はさざめかない。静寂とは現代において非常に貴重なものである事を改めて知った。であれば、なぜ依然として4-5台の4WDが集結しており、1台ピンで奥地に行かないのか。その方が静かで顧客は満足するのでは無いか。その辺りの疑問に対する答えは翌朝出ることになる。