銀行再々編

 久しぶりに銀行の再編が相次いでいる。新生とあおぞらに続いて、住友信託に中央三井が統合を発表した。
 銀行というのは基本的に規模の利益が大変良く効く業態なので、こういう似た様な銀行が統合するのは経営的なメリットが判りやすい。例えば、日本の銀行はどこもかしこもフルラインサービスをしているから、規模の大小を問わず同じ様な基本システムや事務処理オペレーションを用意する必要が有り、システムの処理能力に多少の差はあるにせよ、銀行であるが故に共通的にかかる固定費が重く、規模の差による収入規模の差がダイレクトに収益規模に効くのである。また、一般的に大きい銀行ほど信用力が高く、低いコストで預金を集め、それ程ダンピングに巻き込まれずとも貸出を実行できるので、その意味でも規模は収益に繋がる。この観点ではまさしく判りやすい合併である。
 僕は企業買収ファンドで働いていて、ファンドもLBOという形で多様な銀行から借入をしているが、そのユーザーとしての立場で言うと、選択肢が減少して寡占化が進むから、レート的には貸し手に有利に働くのは間違い無い。但し、外資的なストレートさのある長信銀二行と、メガバンクよりはクリエイティブでクイックだが基本は日本の銀行カルチャーな信託二行の統合だから、インパクトは余り大きく無いだろう。むしろ一行あたりの融資上限金額が、統合によるバランスシートの拡大で大きくなって、サービスが良くなる可能性すらある。一方、これが組合せが入れ替わって、信託と長信銀の統合が二つ起きた場合を考えると、性格の違う銀行同士の統合になるから状況は異なる。例えば、両方とも信託のカルチャーが強く残ったとすれば、外資のレンダーは激減しているから、日本に外資外資っぽい銀行も殆ど居なくなることになる。仮にそうなっていれば、日本の借入市場の多様性を損なったであろう。
 また、もう一つシナジーの点から言えば、北海道拓殖銀行の本州資産を、かつて中央三井の前身の中央信託が買収して、まさに「性格の違う銀行同士の統合」を行ったが、うまくリテール信託というモデルはワークしなかった様だ。長信銀と信託の統合でも、顧客基盤が若干は広がるということと、長信銀が持つ投資銀行プロダクトを信託の顧客に売れるという以外にはシナジーが余り思いつかない。M&Aの狙いとして一般的なチャネルシナジーやクロスセルというのが、日本のバンキングマーケットでは他の業態ほどうまくワークするイメージが沸かない。これは、何か根本的な原因があるのかもしれないし、単に硬直的な人事制度のせいで、統合効果がうまく働かないのかもしれないが、硬直的な人事制度を変えるというのは、またもの凄い作業なので、それも根本的な原因と言えるのだろう。
 ちなみに僕は、ファンドの前は銀行で統合を経験している。その時の経験からすると、性格が似た様な銀行同士の統合は、株主や預金者にとっては良い話だが、中で働いている者にとっては大変きついことである。似た銀行の統合というのは、重複ポストを一つにして固定費を下げる前提の、リストラ合併がその本質なのである。従って、今の自分と同じことをしている人間を刺さないと自分が生き残れないことになる。よって、目の前に位置している支店とか、同じ業務しているチーム同士は熾烈な争いをしがちである。それが、他の銀行から顧客を奪ってくる内は健全だが、合併相手の銀行から奪えば、相手はマイナス1でこちらはプラス1で2点差になるということで、それが健全でないことは皆判りながらも、そういった刺すか刺されるかの勝負に陥ってしまうことが多く、人材は消耗する。
 ただ、銀行の中に居る人には大変な刺し合いだが、それがバカバカしくなって銀行を飛び出す人間には優秀な人が多いから、日本全体の金融産業の発展には大銀行の優秀な人が中から出てくるのは良いことだろう。長銀や山一は外資系金融機関にも、ファンドみたいな金融ベンチャーにも幾多の人材を輩出したが、東銀や三井、三和の人も負けず劣らず外で活躍している人が多い。基本的には人材の流動性が増せば増すほど、財務と人事の外科手術を得意とする企業買収ファンドは商売がしやすくなるから、中長期的には対象銀行は人材の流出で大変だろうが、外の人には、この点で良い合併だったと感じられるのかもしれない。
 最後に、マニアックなネタだが、銀行間のキャッシュサービスのネットワークが今後どうなるかは興味深い。都銀ユーザーはBANCSというネットワークで相互に繋がっていて、このネットワークがあるので、振込などを行うときは違う銀行の口座でも相手の口座名が表示される様になっている。一方、長信銀三行と商工中金はLONGSという違うネットワークを独自に作っている。新生銀行の口座に都銀から振り込む時に、相手の口座名が口座番号を打ち込んでも表示されなくて、あれっと思った人は多いと思うが、原因はこれで、ネットワークが違うのである。このLONGSは興銀がみずほになった時点で離脱しているので、今は新生とあおぞらと商工中金で運営している。これが更に新生とあおぞらが統合されるので、LONGSは2行での運営となり、ネットワークというか単なる相互接続に等しいものになってしまう。コスト的には別に統合しても変わらないのだろうが、新生あおぞら統合行と商工中金の間のトランザクションは余り多いとは思えず、ネットワークを維持する意味合いに乏しいから、いずれ解消される方向に行くのだろう。非BANCSセブン銀行シティバンク銀行の様に、個別にBANCSや地銀ACSに接続をする様になるのかもしれない。同じ様に信託銀行の業態内ネットワークであるSOCSも、もともと7行あったのが、これで三菱UFJ・みずほ・「中央三井住友」の3行になるから、こちらも意義をそろそろ問われる頃だろう。

○ついしん

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