セッティングが産んだマスターズ覇者

アリスター・マッケンジーが、なぜあそこまで(オーガスタ・ナショナルGCを)マニキュア風コースに作ったのか、理解出来ない。」全英オープンを5度制したオーストリア人プレイヤーであり、かつセントアンドルーズのオールドコースホテルが保有するデュークスコースを代表作とするゴルフコース設計家のピーター・トムソンは、マスターズの舞台であるオーガスタ・ナショナルGCをそう評したと聞く。
極端にグリーンを硬くした今年のオーガスタのセッティングを見て、全英のグリーンの様だと感じ、僕はふとこの評論を思い出していた。全英の舞台は、マニキュア風コースの正反対であろう、あるがままの地形を活かしたリンクスコースである。グリーンがここまで硬いとリンクスコース同様にスピンが効きにくくなるが、この硬さの背景は、このリンクスコースのクラシックな要素を取り込み、スピンとランニングの有利不利の差を縮めて、プレイヤーに選択肢を提示したいというものだったのだろうか。それとも単にグリーンの難度を上げて、近年目立つ二桁アンダー中盤の優勝スコアに対抗したかっただけだろうか。
今年のマスターズ、他を圧するロングドライブを持ち、2打目を高さで勝負して止めれるバッバ・ワトソンと、全英的なランニングアプローチに習熟したシニアなプレイヤーとが、結果として上位に目立った。後者のシニアなプレイヤーの活躍については、マスターズ委員会の狙いが、もしリンクスコースの要素を取り込むことであれば、その狙いは渋く達成できたと言えるだろう。ただ、ゲーム全体を通しては、とにかく前者のバッバ・ワトソンが無双した印象が強かった。時折370ヤードなんていうロングドライブをぶっ放し、二打目をショートアイアンかウェッジでビシビシ止めてくるバッバ・ワトソンは圧倒的に有利だった。オーガスタ・ナショナルも2002年に300ヤード、2005年に更に200ヤードと距離を伸ばす改造をして、ロングヒッターに対抗しようと努めてきた。でも、今回のマスターズは、改造余地が無くなってグリーンを硬くしてスコアを抑えようとしてみたら、逆に超ロングヒッターにはより有利になったでござる、という図に見えて仕方無い。バッバ・ワトソンは、同様にグリーンの硬い全英ではこれまで良い成績を残していないから、マスターズのこの結果は興味深いものがある。風なのかラフなのかフェアウェイの硬さなのか、それらの組み合わせによる偶然性なのか、何かスコアを左右する要素が、全英とは大きく違っていたのだろう。
全体的なプロプレイヤーの飛距離向上トレンドはコースにとっての悩みの種だ。でも、昨年の全米オープンの舞台メリオンは7000ヤードを切る短い設定だったが、優勝スコアは1オーバーに止まった。これはプロプレイヤーの飛距離向上への対抗策はコースの距離延長だけでは無いことを示した格好になった。が、ある種のお祭り的なマスターズが、極端に難しい全米オープン的なセッティングになるのも違和感が有る。今年の結果を踏まえて、オーガスタ・ナショナルは来年どういうセッティングで臨むのか。一つの偶然として処理して、再度硬いグリーンとするのか、元に戻して二桁アンダー中盤の優勝スコアを許容するのか、あるいはフェアウェイをもっと絞って別の難度を上げるのか。中期的には、コース改造やルール変更の様な大技も有り得ることだろう。その辺りを眺めていれば、米国のゴルフコース設計への考え方の潮流もうっすらと感じられるんじゃないだろうか。
僕個人としては、超ロングヒッターの無双を呼ぶセッティングはつまらなく感じる。ロングドライブが技では無いとは言わないが、それが余りに有利になりすぎた、というのが今年だった様に思う。もともとグリーン周りに落としどころが限られるオーガスタ・ナショナルだから、中距離ヒッターでもグリーンにうまく落とせば止めれる硬さに戻した上で、フェアウェイとラフのバランス変更なのか、グリーンにうまく落とせる難易度の調整をした方が、超ロングヒッターの有利さが修正され、マスター達のお祭りに相応しい技の見せ合いに近付くんじゃ無かろうか。