邦銀の海外業務

こんなニュースが出ていた。

大手銀、海外向け協調融資加速

 大手銀行が海外向け協調融資を拡大している。みずほコーポレート銀行はこうした「クロスボーダー型」の企業融資を強化しており、イオン傘下の米衣料品チェーン向けに4億ドルの案件をまとめた。景気回復を背景に国内の貸し出し競争が激しさを増し、海外取引を新たな収益源にしようとの動きが出ている。
 このほどみずほコーポ銀がまとめた4億ドルの協調融資は、クロスボーダー型としては過去最大。イオンの米子会社タルボット向けで、タルボットは調達した資金を婦人服専門店ジェイ・ジルの買収にあてる。協調融資は企業の本籍国で参加者を募るのが普通だが、日米の両市場で参加者を募集した。

○NIKKEI NET

銀行の海外業務って言っても2つあって、一つは純粋な青目の会社をクライアントにした業務、もう一つは日系の会社の海外支社、いわゆる「茶目」を相手にした業務である。これは後者だ。ファンディングは日米双方で行ったとしても、クライアントの意思決定その他は日本で行われている。
これはこれで海外業務なのは間違いないのだが、昔からやっていた業務なので、これを新たに「海外取引を新たな収益源に」とまで表現するのは違和感がある。確かに、90年代後半の通貨危機の時代には、ルービンと宮沢蔵相が「We're in shambles(我々は修羅の巷にいる)」と表現していたが、邦銀は円の調達に目一杯でドル建て融資なんてもっての他という雰囲気だった。しかし、そこから数年を経て2000年の初頭には回復して、こういう日系企業向け融資も復活してきている。でなければ、ディリング部門以外の海外業務は総撤退している筈だ。
茶目向けの融資も力の入れ具合ってのはあるだろうが、海外業務を新たな収益源にするというメッセージを出すなら、外貨建てや非居住者向けローンの担当者を増やしたとか、海外子会社を持つ企業を開拓しているとか、やっぱりそういう活動が伴わないと、なるほどねと思いにくい。僕はむしろこの協調融資から読み取れるのは、企業側の活動の方の様に思われる。
これは、日本板硝子のピルキントン買収などに続く、日本企業のグローバル展開の一環の活動である。銀行と同様、日本企業も総じてバブル後にバランスシートが傷み、不況によってPLもイマイチで、海外どころの騒ぎではない時代が続いたが、ここ数年、ようやく買収などの積極策によって、統合しつつある世界市場に打って出る余裕が出てきた事の一例である。
ただ、M&Aというある意味ドライな手法を採ったが、イオンは第一勧銀、つまり今のみずほコーポレート銀行をバリバリのメイン銀行としており、金融取引については従来通りメインを遇する慣行のままである。これが、非メイン行が主幹事なら、その銀行は「海外業務を新たな収益源にしている」一つの表れと言ってもおかしくないが、今回はメインがそのまま順当に主幹事になっている。
そういう意味では、イオンが積極的に海外で買収戦略に出て、それが順当にメインに資金調達の相談が行って、メインであるみずほコーポレート銀行が漏らさず主幹事を獲得したという特に面白くも何ともない普通の筋書きが、今回の話の本質だろうし、これをもって邦銀が海外業務に力を入れていくとまで言うと、なんとなく違和感を感じるのである。
僕ならば、もうちょっと掘り下げて、かつては「海外メイン」という言い方で、国内は例えば第一勧業銀行がメインだけど、海外では東京銀行とか富士銀行とかの海外に強い銀行を主力に用いるという慣行が有ったが、現時点で三菱東京UFJ銀行が、その様な特殊なかつての強みをまだ保持しているかとか、イオンのグローバルな資金調達は日本で全て行っているのか、もしそうならそのメリットは何かとか、M&A資金の様な突発的な資金ニーズも依然としてファーストコールはメイン銀行であって、M&Aのアドバイザーは大体金融機関だが、そこからの調達は検討しなかったのかとか、この記事なら、そういう視点が入っているともっと面白くなる様に思う。
実務経験が無いと、なかなか着想自体がきついのかも知れないが、マスコミはやはり第三者として傍目八目のバリューを出す業態だと思うので、一言のメッセージであっても、業界関係者をうならせるものが有って欲しい。