small GM

 この所の時間の流れの早さからすると、いささか旧聞に属する感じだが、GMの優良資産の移管に連邦破産裁判所が許可を出した様だ。これで工場などが新会社に移り、営業が開始できる一方、旧GMの法人格には売却か清算するブランドに属する資産が残り、順次回収しては債権者に債務を返済していくことになる。上告される可能性はあるものの、国策再生を裁判所がひっくり返すことはあるまい。
 このChapter11申請によって、GMは負債の金額を大幅に削減し、バランスシートは綺麗になる。また、PL面でも、細かい医療保険への今後の積立額がどう変わったかとか、現役労働者の人件費をどれだけカットできるかとかの詳細は、日本語ソースでは見つからなかったが、要は人絡みのコストは、日本メーカー並みにはなる様である。
 負債カットして、PLもコストカットして、優良ブランドだけ残し、来年にはIPO目指すとなると、ゾンビのようにGMは速攻蘇ることに見えるが、果たしてそれは本当の復活となるのだろうか。フィナンシャルエンジニアリング的には復活なのだが、僕は何とかこじんまりやれていく程度の話に止まり、GMにはかつての栄光は戻らず、Small GMとして現状維持程度に汲々とすると予想する。何故かというと、Chapter11の前後で何が変わったかと言うと、GMのコスト構造が変わっただけだからである。残る4ブランド以外は、他への売却が前提だから、市場全体で見た供給が減る訳でも無く、これで需要が増える訳でも勿論無い。GMが急に消費者ニーズに合致した小型車や燃費の良いクルマを作れる様になることも無い。

 3年半前にこんなエントリを書いたけれども、

○GM追加リストラ発表

改めて読み返してみて、

コストを削って悪いことは無いのだが、そもそも赤字という結果の前に、シェアがどんどん低下しているというのが根本的な課題である。コスト削れば赤字幅は減るだろうが、原因を解決しない限り、また早晩リストラを迫られるであろう。

と当時僕は書いたが、今の状況においても余り状況は変わっていないことに気付く。財務的なコストカットや値下げでは、より売れるクルマを、事業構造としてより安く作れる、という他国メーカーの根源的な競争優位をひっくり返すことは出来ないのである。従業員1人辺りの年金債務を減らすことで、これまで10人で溶接していたプロセスが急に8人で出来る様になったりはしないという事だ。最大の問題であった、黙っているだけで出ていくレガシーコストを、法的措置でとにかく抑えたのは寿ぐべきだが、GMに本当に必要なのは、自動車メーカーとしての根源的な競争優位の確立であろう。その点、ピックアップやSUVの成功以降、GMマネジメントチームに、これと言って成功のトラックレコードの無いのは不安材料である。