草津の風景

 これまで草津にはかなりの回数行った。だが、泊まったことは無い。大学時代から社会人初めにかけて、車中泊か交代で夜中も走ることを前提とした、通称“修行ドライブ”をよくしたが、お金が無かったから、草津みたいな無料で24時間の外湯がある所を、よくお風呂として使った。だから、よく行ったが泊まったことは無いのである。その後少し年をとって、20代の中盤くらいからは、温泉に行くなら秘湯系を攻めるのが常となっていた事もあり、敢えて開発されきった草津に泊まることも無かった。ただ、流石にメジャーなだけあって、泉質が良かった記憶だけは鮮烈に残っており、大学の頃に美味しいと思った店を三十路の舌で確認しに行くが如く、いつか草津を今の経験をもって計ってみたいとは常に思っていた。
DSC_4642_300 mm_1-200 秒 (? - 4.0)
[NIKON D700 /SIGMA APO TeleMacro 300mm F4]

  • 草津の近くの風景。新緑が美しい。300mmのボケは一度味わうと病みつきになるが、被写体と背景に距離があると、これだけトロけてしまうので、逆に色のバランスに気を使う。

 また、草津周辺、群馬の新潟よりの山間部は山深く、美しい景色が残っている。日帰りで行ける距離と得られる景色がグッドバランスな地域だ。また、肉質に関しては常に瞠目に値する意見を持つ同僚が超プッシュするイタリアン・レストランが草津にある。庄内のアル・ケッチャーノは遠すぎるが、つくばのTRATTORIA E PIZZERIA Amici(アミーチ)で、地方の新鮮な食材を用いたイタリアンに目覚めて以来、関東周縁のローカル・イタリアンには、ここんとこ常にアンテナを張っていて、この草津のイタリアンも気になっていた。
Yu-YA
[NIKON D700 /SIGMA AiAF Nikkor 28-75mm F3.5-4.5D]

  • 湯畑から。

 そこから話は飛ぶが、この前中古レンズを新たに手に入れた。SIGMA APO TELEMACRO 300mm/F4。ネットオークションで2万円である。新品は定価10万円だったから、お得と言えるだろう。僕が持っている最も望遠の単焦点レンズは、NIKON 180mm/F2.8で、これはブライダルフォトとか、遠距離から狙うポートレートに向いたレンズだったが、屋外ではもう少し望遠が欲しい時があった。
DSC_4718_80 mm_1-20 秒 (? - 4.5)
[NIKON D700 /AiAF Nikkor 28-75mm F3.5-4.5D]

  • 軽いと言ってもオーバー1kg級。結構な迫力のレンズである。

 300mmでF値が4というレンズは、一般にサンヨンとそのままに呼ばれていて、各社から発売されている。300mm/F2.8や200mmクラスと比較してのサンヨンの良さは、(比較的)軽く、ボケが良く、かつ寄れるレンズが多いところである。NIKONのサンヨンも評判が良いのだが、新品で買うと価格.com最安値でも13万円、NIKONのレンズは中古でも値下がりしないから、オクで落としても10万円もする。それと比べると圧倒的に安い上に、SIGMAの方が"MACRO"と名乗れる程度に寄れるので、開放のシャープさはイマイチだが、迷うことなくこちらにした。SIGMAレンズはサードパーティの悲しさか、問題が出やすいのだが、外装も綺麗で、チリ混入も少なく、しかもバチピンで、オクにもこんな良品が流れているのだな、と驚く程であった。
DSC_4644_300 mm_1-200 秒 (? - 4.0)
[NIKON D700 /SIGMA APO TeleMacro 300mm F4]

  • 絞り開放では光が綺麗な丸ボケになる。ボケ命のマクロ系レンズでは必須の才能だ。

 新しいレンズを買うと何か撮りに行きたくなるのは人の常である。また、冬くらいから忙しくて、週末はどっと疲れて寝てばかり、全く週末で行ける小旅行をしてなかった。それで、久しぶりに出かけたいな、という気分になった週末、ふと思い浮かんだのは草津だった。日帰りで丁度良い案配だ。ここでようやく関係なさそうな草津とサンヨンが繋がることになる。
 草津温泉には関越は渋川伊香保まで行き、そこから下道である。草津に向かう途中、吾妻渓谷に寄った。絶壁にへばりつく様に走るR145沿いにあるが、特に大きな看板も無いので、見落としがちなスポットである。
DSC_4633_300 mm_1-320 秒 (? - 4.0)
[NIKON D700 /SIGMA APO TeleMacro 300mm F4]

  • 谷に木が両サイドから迫る。

 渓谷には川が付きものだが、梅雨の時期は増水しているから、どうせなら迫力がある今みたいな時期に行くのが良いだろう。週末も、大増水で絶壁に大水が叩き付け、見応えがあった。
 吾妻渓谷には紅い橋が架かっていて、ここから遙か下の渓谷を見下ろせるのだが、狭い渓谷なので、上には普通に木が覆い被さっていて、昼間でも暗い。あんまりウキウキする気分の所では無いが、プラズマクラスターイオンは大量に漂っていそうだ。
 DSC_4646_300 mm_1-160 秒 (? - 4.0)
[NIKON D700 /SIGMA APO TeleMacro 300mm F4]

  • 緑の季節には紅い橋が映える。もう少し鮮やかに塗られていても良かったかもしれない。

 吾妻渓谷から草津温泉は指呼の距離である。週末だったが中心地である湯畑の近くの駐車場には空きスペースがあった。草津には何度も来たが、せわしなく外湯を2-3回って即出発、ということが多く、正直余り温泉街をブラブラすることがこれまで無かったのと、前述の修行ドライブでは深夜に到着することが多かったから、そもそもそんな時間になると、お店はぴったりと門扉を閉じているのが普通である。
DSC_4665_55 mm_1-80 秒 (? - 4.2)
[NIKON D700 /AiAF Nikkor 28-75mm F3.5-4.5D]

  • ここ10年で大増殖した足湯が湯畑にもある。老若男女が素足を突っ込む足湯は、外国人にも大人気で、別府でも草津でも外国人旅行者が群がっていた。

 あと、こういう立ち寄り温泉を利用した車中泊トラベラーのバイブルみたいなウェブサイトは、「関東周辺立ち寄り温泉ミシュラン」だろうが、このサイトは草津の数ある外湯の中では、大滝の湯に五ツ星を付けている。よって、僕も湯畑近辺の白旗の湯に入った後は、大滝の湯やその周辺に向かうことが多かった。それで、湯畑から大滝の湯に向かうとなると、こちらは温泉街とは違う方向になり、店では無く旅館ばかりが続く。なので、僕は草津には湯畑を外れるとろくなお店が無いものだと思っていたのである。
DSC_4674_70 mm_1-50 秒 (? - 4.5)
[NIKON D700 /AiAF Nikkor 28-75mm F3.5-4.5D]

  • 温泉街にて。

 今回、常識的な時間に草津に行ってみると、それなりの温泉街があることが発見され、銀山温泉とか湯布院ほどじゃないけど、実際普通に楽しめた。一言で言えば、草津に立ち寄ったら、湯畑で不味いおやきや焼き鳥は食べず、温泉街に分け入って、店を探すべし、ということである。湯畑に面した店は、100%観光仕様なので、旅の手練れを満足させる様な代物では無い。
DSC_4666_105 mm_1-250 秒 (? - 4.5)
[NIKON D700 /AiAF Nikkor 28-75mm F3.5-4.5D]

  • これも温泉街で。日本人は細かい造作が得意である。ロシア人には出来ない芸当だろう。マトリョーシカの一番中にあるのなんて、ひどい出来映えのものばっかりだ。

 大滝の湯自体は、素晴らしい温泉だが、合わせ湯という伝統的な入浴方法を体験できないと、行く価値は半減以下であろう。46℃から38℃位まで、温度が分かれた5つの温泉に交互に入る、というものだが、施設が一つしか無いので、男女別に時間が分けられている。これは事前に入る時間をチェックするか、確か90分間隔だったので、長居を覚悟すべし。それこそ北海道の十勝川温泉から、屋久島の平内海中温泉まで、日本の温泉はそれなりに行ったが、大滝の湯はその中でもなかなかのレベルである。長い湯治の歴史が楽しめる。
 DSC_4668_50 mm_1-60 秒 (? - 4.0)
[NIKON D700 /AiAF Nikkor 28-75mm F3.5-4.5D]

  • 西の河原に行く途中。神域への道とはかくあるべし。

 さて、一風呂浴びて、草津のイタリアンに突撃したが、書くと長くなるので、それはいつかに譲ることにする。Al Rododendro、というのがそのレストランの名前だが、確かに肉食人間が推奨するだけあって、メインの肉はやばい位のクオリティだった。野菜も味に力があって旨い。ビーチリゾートでは海の幸に舌鼓を打ちたいが、山岳リゾートには新鮮な野菜・山菜・きのこ、そして上等の肉があるべきだ。
DSC_4685_90 mm_1-30 秒 (? - 4.5)
[NIKON D700 /AiAF Nikkor 28-75mm F3.5-4.5D]

  • 落ち着いた雰囲気の食卓だった。

 店を出たらとっぷりと日は暮れていた。帰りは余り一般的なルートでは無いと思うが、敢えて国道を避け、街灯の無い闇の暮坂峠を越えた。暮坂峠は人家から遥かに離れた山中の道である。途中、オールロードクワトロのヘッドライトに猪の家族が照らされたが、肉食後の殺気を感じたのか、目が合うなり、猪は怯えた様に逃げ散っていってしまった。
DSC_4653_300 mm_1-200 秒 (? - 4.0)
[NIKON D700 /SIGMA APO TeleMacro 300mm F4]

  • ガードレールの脇の暗い所から、光にむかって、すくっと草が伸びてきていた。テレマクロ買ったら、つい撮ってしまう構図だなぁと思いながら、やっぱり撮る。