人口増は成長の母か、それとも失業の母か

 ユーロもドルも一息ついた風情だ。この長期のユーロドルチャートを見ても、1EUR=1.2-1.3USDというのは2004年から2007年のボックス相場と同じで、居心地の良い水準だろう。

○ユーロドル10年チャート(1ユーロ=xドル)

 長期で見れば、人口減少国であるユーロは、先進国で唯一に近い人口増加国である米国に対して、ファンダメンタルズでは日本同様に見劣りするとされているが、米国が個人セクターのストック調整がやはり長引き、日本型デフレに当面は陥りそうなことで、ユーロも銀行セクターや財政など様々な瑕疵は抱えるものの、米国とどっこい位の扱いになっているのだろう。米国個人セクターのストック調整については、1年弱前の下記エントリが詳しいが、特にGDP中の最大セクターである個人消費が冷える効果は当面続くだろう。

■2009-11-30 ドバイ・ショック

 また、果たして人口増加がファンダメンタルズに寄与するのか、というのも、改めて考えてみると疑問に思えてきた。勿論、経済学上は労働人口増と投下資本増と生産性の向上が成長の三要素だから、「労働」人口が増えれば成長のファンダメンタルズは良くなるのは間違いない。しかし、また過去のエントリからで恐縮だが、このエントリの終盤で書いた通り、現在は中進国という、作れるものは先進国と変わらないけど、一人あたりGDP/所得は先進国より低いという、過去無かった存在が現れて、先進国の雇用や所得に裁定が働き出していると考える。(過去有ったのは、一人あたりGDP/所得は先進国より低いが先進国と同じものは作れなかった「発展途上国」で、こことは裁定が働かない)

■2010-04-20 経産省編「日本の産業を巡る現状と課題」について

 そうすると、中期的にも先進国の雇用増は見込めないのかもしれない。勿論、自律的リバウンドの様な形での回復はあるだろうが、持続的な成長という観点での雇用増は何がレバーになるのか、打ち出の小槌たる金融がコケて、やっぱり輸出だと自信なさげに議論しているなか、ちょっと想像が付かないのが現状である。それで、米国の直近の失業率は9.6%だが、世界的な統一基準で、就職を諦めた人やホームレスとかはここにカウントされないので、実質は大体17%位というのが通説の様だ。日本は直近5.2%で、同じ様に就職を諦めた人はカウントされないので、実質は10%超、雇用調整助成金で2%位押し上げられるので、12%位が本当の実質という所だろう。話は多少それるが、この雇用調整助成金、利用件数は景気の底打ちに伴って順調に減り、ピーク時の半分になっている。人材の流動化を阻害したという批判もある様だが、リーマンショックという未曾有の危機が雇用に与える津波的悪影響をスムージングした効果は絶大であったから、もっとこの政策は賞賛されてしかるべきだ。
 話を戻すと、中期的に先進国には裁定が働いて雇用増が見込めず、かつ米国の実質失業率が17%も有るとすると、今後多少のリバウンドは有ったとしても、人口が増えることが、労働人口増に与えるインパクトは極めて限界的であると思う。年率2%成長として、その半分が雇用増で成し遂げられたとしても、完全雇用までには10年以上かかる。しかも、米国は人口増加国で、今後ベビーブーマー世代の退職が進むが、年率1%弱の人口増が見込まれる。ということは、成長によって発生する雇用増と人口増がほぼ拮抗してしまう為、殆ど失業率が下がらないということになる。
 ガッツフィーリングで変数に数字を入れているので、正確な議論をするには、もう少し慎重を期して数字を調べないといけないが、裁定なり何なりで先進国の雇用が今後頭打ちだとすれば、人口増加国ほど失業率が下がりにくい、という構造そのものはおそらく正しいだろう。そして、この構造から何が読み取れるかと考えてみると、おそらく主要国の中で米国の失業率が最も高止まりして、社会不安が起きやすい状況になるのでは無いか。え、大した話じゃないって?いやいや、第二次世界大戦前、日本とドイツという後進資本主義国家(=中進国)からの裁定が働いた結果、先進連合国各国は世界恐慌を機にブロック経済内需主導型に移行したのは周知の事実だと思う。そして、結果として低成長或いは不況に喘ぎ、かつ国土に過剰なる人口を抱えた日本とドイツは、帝国主義的施策に打って出ることになる。国土に過剰なる人口を抱えた主要国が低成長に喘ぐと何が起きるか、そこはリスクを見過ぎても足らないことはあるまい。
 ひるがえって見れば、そういう時期に人口が真っ先に減る日本は、しばしの世情安定には逆説的に良いポジションに居るのかもしれない。長い目で見れば、人口減はいいこと無いので、何とかしないと不味いのは間違いないことだけれども。