DX標準ズーム対決

 D700というフィルムサイズのセンサー(ニコンではこれをFXフォーマットと呼ぶ)を積んだ重いカメラを使うにつけ、もう一台持っているD90という一回り小さなセンサー(これはDXと呼ぶ)を積んだカメラの軽さが恋しくなる。FXにはFXなりの高感度やボケ味などの良さがあるのだが、DXはセンサーが小さい分だけレンズも小さく軽く出来る。比較すると、DXフォーマットのシステム的なまとまりの良さはやはり秀逸だと再確認する。
 一眼レフがデジタルの時代に入った後、僕はデジタル一眼をなかなか出せなかったミノルタからニコンに転向したのだが、そこから数年で、買い集めたニコン用のレンズは10本を超えた。いわゆる安レンズが多いのだが、数を集める楽しみ方も出来るのが一眼レフの世界である。その中で、ふと手持ちのラインアップを確認すると、DXフォーマットの標準レンズ的なものが3本も有った。なので、そろそろ整理も視野に入れ、画質を比較してみようと思った次第である。標準レンズを何本も持ち歩くことは無いし、あまり重箱の底をつつく様な画質比較に興味も無いから、これまでまともにレンズ間の優劣を測った事は無かったから、こういう比較は初体験である。ものは試しということだ。
 場所は、目黒の林試の森公園である。レンズは、

の3本だ。これらはズームレンズなので、最も広角である17-18mmゾーンと、TAMRONがギリギリ望遠になる50mmの2点で画像を比較した。ズームレンズは、ズームの途中で画質がぐんぐん変化するから、一つの焦点距離だけで比較して結論を出すのは危険である。また、一般にズームレンズよりも非ズームの単焦点の方が画質が良いので、レファレンスとして単焦点も持っていった。単焦点は、TOKINA 17mm F3.5とNIKON 50mm F1.4Dである。どちらも古い設計のレンズだ。あと、これまた10年以上前にデビューした古いレンズだが、NIKON 28-105mm F3.5-4.5Dというレンズがあって、この画質は現在でも「安ズームにしては秀逸」と評判が良い。目黒に行く途中に三宝カメラという大きな中古カメラ屋があるが、ここに当日寄り道した際に、うっかりこのレンズの、使用感が全く無い美しい中古を15kと格安で発見してしまい、数分後にはカメラバックに収めることになってしまっていた。随分年食ったルーキーだが、折角なので、この50mm域もついでに撮ってみた。
OLD AF 28-105D
[NIKON D700 /TOKINA 100mm F2.8 Macro]
 カメラに詳しく無い方に多少前説をすると、ニコンキヤノンオリンパスなどはカメラメーカーであり、自社のカメラに適合するレンズを作っている。これを純正レンズと呼ぶ。上に書いた、TAMRON(タムロン)・SIGMA(シグマ)・TOKINA(トキナー)というのは、耳慣れない社名だと思うが、これらはレンズ専門メーカーで、各社のカメラに適合する互換レンズを作っている。もちろん、互換レンズの方が純正と比べて安い。画質は純正の方が良いといいたい所だが、最近は互換レンズのクオリティが上がったので、結構良い勝負だったりする。
 もう一点、下記を読み進めると絞り、という表現が出てくるが、これはレンズを目に例えると、瞳孔の大きさを決める虹彩みたいなもんである。レンズは、現代でもガラスを削ったり、溶かして型に入れたりというアナログな製法しか無い為、レンズの中心部の方が、周辺部より良く出来ているのが普通である。ガラスレンズの周辺まで一定のクオリティを保つのは難しいということだ。絞りを絞ると、目で言えば瞳孔を小さくするということだから、一番良く出来ているレンズの中心部分だけを使うことになり、画質は一般に向上する。絞り開放というのが、逆にレンズ全域を使った時で、この時画質は悪化するが、フォーカスポイント以外がふわっとボケる度合いが上がる為、写真の表現としては面白くなる。ボケか画質か、というのがフォトグラファーの永遠の悩み所なのである。写真の世界では、絞りの度合いの事をF幾つ、と呼ぶ。下記では、F値開放というのが絞り開放を意味して、「画質よりボケがマックス」という状態であり、F8.0というのが「そこそこ絞った時で、一般には画質がマックスになるとされる値」である。

 テストはカメラを三脚固定にして、レンズだけを入れ替えた。構図はこんな感じである。

○17mm

17mm TEST
[NIKON D90 /SIGMA 17-70mm F2.8-4.5]

  • これが17mmの参考写真。中心部サンプルはど真ん中、周辺部サンプルは左下隅を使用。

○50mm

50mm TEST
[NIKON D90 /AF Nikkor 50mm F1.4D]

  • これは50mmの参考写真。中心部サンプルはど真ん中、周辺部サンプルは右下隅を使用。

 なお、画質の比較方法は単純で、ワイド端である17-18mmと、50mmの2つを撮り、その中心部と周辺部をピックアップして比較している。17-18mmゾーンでは周辺は最も左下、50mmは右下の200×200ピクセルをピックアップしている。

○17mm対決シリーズ

  • 17mm F値開放 中心部


 正直、レンズによってこんなとろけた画像からそこそこ締まった画像まで、ここまで画質に差が出るとは思わなかった。F値が2/3段暗くて有利とはいえ、右下のTOKINAの17mmが一つ頭が抜けていて、単焦点の面目躍如である。後は、SIGMA > NIKON > TAMRON という順番か。NIKONもF3.5と有利な筈だが、高倍率ズームというハンディを跳ね返す程では無い様だ。TAMRONは開放とはいえ大分ゆるい画像という印象を受ける。

  • 17mm F8.0 中心部


 さすがに絞ると各レンズ、びしっと締まった画像を出してくる。上の開放とは雲泥の違いである。画質の順番は開放とほぼ同じだが、差は縮まる。TOKINA > SIGMA > TAMRON > NIKON こんな感じか。上位2者と下位2者間の順位は、極めて僅差で、2-3位の差が相対的に大きいと思う。

  • 17mm F値開放 周辺部


 NIKON18-200/3.5-5.6Gのキャプションが50mmになっているが、これは18mmである。中心部と違ってTAMRONが健闘している。というか、良い画質を出すのが難しい周辺部だが、TAMRONは中心部と余り変わらないのでは無いだろうか。あと、単焦点なのにTOKINAが酷い流れである。フルサイズ用レンズでこの流れは気になるところだ。TAMRON > SIGMA = NIKON > TOKINA という感じか。SIGMATOKINAは中心部が良かっただけに周辺画質の落ち込みが目立つ。

  • 17mm F8.0 周辺部対決


 絞るとTAMRONは更にびしっとした絵になってきた。TOKINAは大分改善したが、まだ最下位である。NIKONは絞っても余り変わらない。TAMRON > SIGMA > NIKON > TOKINA と概ね順番は開放と変化せず。

○50mm対決シリーズ

  • 50mm F値開放 中心部


 これはレンズによって開放F値が結構違うので余り意味の無い比較になってしまった。F値の順に良いと思う。一番絞れている18-200mmが良く、次はF4のSIGMAと新人NIKON 28-105D、最下位グループがF2.8のTAMRONNIKON 50/1.4Dである。同じF値のものを比べると、最新のデジタル専用設計のSIGMAを抑えて10年前のNIKON 28-105Dの方が良いのは驚いた。最下位グループでも古い単焦点NIKON 50/1.4Dより、新しいTAMRONの方が悪い。TAMRONは、右下に参考として載せたNIKON 50/1.4DのF1.4開放と然程変わらないレベルである。

  • 50mm F8.0 中心部


 F8まで絞り、条件を揃えて50mmの中心部を比較してみると、葉っぱよりも下の黒い枝の質感に一番差が出ていると思うが、NIKON 28-105DがNIKON 50/1.4Dに迫る出来映えなのには驚く。この中では、NIKON 18-200mmが、他よりもオーバー目の露出のせいもあるが、葉っぱがのっぺりとしてしまって、不満である。順番を付けると、NIKON 50/1.4D > NIKON 28-105D > SIGMA 17-70 > TAMRON 17-50 > NIKON 18-200、てなところだ。

  • 50mm F値開放 周辺部


 これも中心部の開放のものと同じで、F値が写真によって違うので、全体の序列は付けられないが、同じF値のレンズ同士の比較であれば、意味がある。F2.8同士では、TAMRONNIKON 50/1.4Dがあるが、中心部ほどの差は無いが、NIKONの方が若干良い。ただ、NIKONの絵に派手に緑色の色ズレが出ているのは気になるところだ。F4同士では、中心部とは差が逆転して、SIGMA 17-70の方が、NIKON 28-105Dよりも良い。また、F4.8で有利な筈のNIKON 18-200よりもSIGMA 17-70の方が僅かに良さそうだ。17mmとは打って変わって、SIGMAは50mmゾーンでは周辺まで安定した像を結ぶようである。

  • 50mm F8.0 周辺部


 F8まで絞ったが、これもF値開放に続いて、明らかにSIGMAがWinnerである。NIKON 28-105Dがやや苦しく、他は横一線という感じだろうか。絞っても画質が改善しない傾向が続いていたNIKON 18-200だが、50mmのこの周辺だけは、かなり改善した様に感じる。ズームレンズの不思議である。順番的には、SIGMA 17-70 > NIKON 50/1.4D = TAMRON 17-50 = NIKON 18-200 > NIKON 28-105Dとなる。

○総評

 17mmと50mmそれぞれの中央と周辺をF値を変えて2×2×2の8パターンで撮ってみたが、SIGMA 17-70が平均的に良く、新しいデジタル専用設計の良さが感じられた。一方で、同じデジタル専用設計のTAMRON 17-50は、広角サイドの周辺以外は低調で、これならNIKON 18-200mmで間に合う感じである。唯一のF2.8通しのレンズなので、表現の自由度が高いという良さはあるのだが、F2.8の画像がここまで不安定だと、なかなか使いにくい。自分の中では、オクにドナドナするという方向に固まりつつある。
 また、衝動買いしたNIKON 28-105Dが、周辺はそこそこだが、中心部は昔のレンズとは思えないほどデジタルでも切れ味が良くて収穫だった。SIGMA 17-70と、このレンズは、若干NIKONの方が望遠寄りだが、400g台の重さ、そこそこのビルドクオリティ、シャープな画質、ズーム望遠端でF4.5という明るさ、今となっては貴重な寄れる簡易マクロ付き、などの性格が共通し、よく似ているレンズである。ある意味かぶっていて、望遠よりの被写体が多いか、広角よりが多いかで使い分けるということだが、僕は余り広角を使わず、ある程度被写体を大きく写す派なので、17-70mmという焦点距離よりも、28-105mmの方が使いやすい。今度TOKINAから18-60mm/2.8というのが出るらしいが、良いDXフォーマットのF2.8通し標準ズームが出るなら、それとNIKON 28-105Dを残し、SIGMA 17-70をドナドナとした方が、ラインアップのかぶりを最小化できるのかもしれない。
Results
[NIKON D90 /AiAF Nikkor 28-105mm F3.5-4.5D]

  • 桜はすっかり散った。ただ雨がふらなければ、散っても色を保つ。

 あと、今回の対決シリーズは、ほとんど解像度だけを対象としたが、レンズの性能は、それだけでは語れないことは補記しておきたい。色合い、AFの速さ、歪み、逆光の強さ、ボケのまろやかさ等々、要素は色々ある。ポートレート撮る人なら、周辺部は大抵ピントが合っていない背景になるから、周辺部の解像度はどうでも良くて、血色良く写るのが一番、なんてこともあるだろう。僕は比較的風景が多いのと、ボケが必要なマクロを余り撮らないので、こういった解像度のテストをしてみた次第である。
 フィルムカメラの時代は、カメラ本体は画質に殆ど影響しなくて、フィルムを揃えれば後はレンズが画質を決めていた。写真を見て、どのカメラで撮ったのかじゃなくて、どのレンズかと聞いていた時代である。それがデジタルになって、フィルムに当たる部分が撮像センサーとして内製化されると、センサー性能やソフトウェア的な画像処理という点で、カメラ本体が画質に影響する様になってきた。ただ、今回改めてテストしてみると、昔と変わらずレンズが画質にとって相当重要な要素であることを再認識した。レンズが映像を作り、センサーがそれを記録する。音楽で言えば、記録の善し悪しより、演奏の善し悪しの方が先ってことであろう。
Gaze from behind the door
[NIKON D90 /AiAF Nikkor 28-105mm F3.5-4.5D]

  • 目黒の路地裏を歩いたら、ぎろりと睨まれた。子供に作った凧だろうか。