ボロブドゥールへ。5日目:キャバクラゴルフ


 今日は旅行の最終日である。早朝起きると、支配人が「サム ソート オブ ハード デイ」で残念だったな、と声を掛けてきた。exactly、という感じだが、僕が、せっかくの自分のホテルをほぼ寝て終えたことを不憫がった支配人は、ジャカルタのトランジット時間にゴルフに行く事を提案してくれた。ジャカルタを発って成田へ向かう便は、夜行便を選んでいたが、ライオンエアーを全く信用していない僕は、朝の便でジョグジャカルタを発って、午前中にはジャカルタに着いておく積もりでいた。流石に半日あれば、オペレーションが相変わらずの大混乱で遅延しても大丈夫だろうという算段である。
 ゴルフは好きだし、夜行便で朝に東京に着いたら、そのまま5連休明けで出勤しようと考えていたから、一日の終わり際にシャワーの浴びれるゴルフは、こういう強行日程には大変フィットしたアクティビティである。早速アグリーして、「チェンカレン・ゴルフクラブ」という所の予約を取って貰った。ここはアマンリゾートもお奨めで、グッドゴルフクラブだ、とのことである。
Air Lion
[Panasonic LUMIX LX3 / 35mm F5.0]

  • これが噂のライオンエアー。やる気の無いフォントである。

 さて、早朝アマンリゾートを発って、ジョグジャカルタの空港に順調に到着し、あとは懸案のライオンエアー待ちとなったが、始発に近いとあんまり混乱しないらしく、ライオンエアーは割とあっさりと飛び立った。こういうこともあるらしい。ちょっとツマンナイと思ってしまう自分が居る。ちなみに、アマンジオに着いた時のアクティビティプランニングの時間に、支配人から帰りはどこのエアラインか聞かれて、「ライオンエアーだよ」と答えたが、その時彼の表情が曇ったのを僕は見逃さなかった。やはり、アマンリゾートに泊まる様な客は、清く正しくガルーダに乗るべきものらしい。
 Cengkareng、と書くチェンカレン・ゴルフクラブは、空港から直ぐだった。一旦合意した金額を到着前に「そういや、ミニマムチャージに満たなかった」とかで倍にしてきた怪しからんタクシードライバーのクビを刎ね、血なまぐさい感じでの到着である。合意をした金額を変えてきたので、その変更フィーで逆に100$よこせとか言ってみた。その事件で、相当エキサイトして入場したのだが、突如ミニスカのギャルが受付で登場である。

「Hi, Bohemian_style-san Omachi-shite-mashita.」
「おおおおっ」
「Kochira-desu」(と、腕を組まれてエスコート)
「ぬおおおおおっ」

 JTBのパックツアーでトルコ旅行をしていたら、ベリーダンスショーでやにわにダンサーに指名されて舞台に上げられたオッサンみたいなぎごちなさで、ロッカールームまで歩くことになった。とりあえず、ここのスタッフは、ウェイトレスも受付もプロショップの店員も、ミニスカポリスみたいなのばっかりである。いいのか、イスラム教国がこんな扇情的で。

○ゴルフ場ウェブサイトに載っている、女性スタッフの図。

出典:Cengkareng Golf Club

 それで、想定外の展開に相当慌ててしまったのだが、心を落ち着けて周りを見ると、客の6割は白人、その他が多い方から華僑→韓国人→日本人→マレー系の順番であることが判った。みんな、等しく鼻の下を伸ばしておる。東南アジアのゴルフは、大抵客一人にキャディ一人で殿様ゴルフが原則だが、ここはキャディが皆若い。ナイスショットを客がすると、キャディとハイタッチしたりして、キャッキャとやっておる。そうか、これはキャバクラだと得心した。キャバクラにゴルフという二大おやじアクティビティが、ここインドネシアの地で華麗にM&Aなのである。疑似恋愛たるキャバクラ文化は日本が生み出したものだと思うが、日本の地ではコストが高すぎるせいか、アフターという形以外ではゴルフとは出会わなかった様だ。一方のインドネシアでは、公然とキャバクラゴルフが成立し、各人種のオトコがそれを愉しんでいる。僕は、欧米てのは、恋愛とコールガールの間はストリップ位しかない風俗デジタル文化で、日本やアジアてのは、その間に疑似恋愛もあり、風俗の程度もありで、「公然とおさわりして良いキャバ」とか、順列組合せで無限のグラデーションがある、風俗アナログ文化だと思っていたが、この有様を見ると、白人もキャバクラ的なものを十分受け入れる様である。僕は、接待以外の理由でキャバクラに行く事は無く、どっちかって言うと自腹切るのは意味不明と思っているので、そのコストが乗ったゴルフ料金を自分で払いたいかと言われれば明らかにNOだが、これは普通に考えたら男性天国ですなぁ・・。銀行員時代に「休みは東南アジアでゴルフに限る」とかヌカしてた上司達が何をしに行ってたのかはよく理解出来た。それにしても、アマンジオが、ここをグッドゴルフクラブだ、と推薦したのは、いかなる理由からだったのだろうか。
Hanamichi
[Panasonic LUMIX LX3 / 35mm F5.6]

  • 林間コースである。暑かったので、暑苦しく色飽和させてみた。

 さて、雑念を振り払って、PINGのレンタルクラブを受け取ると、ふと我に返り、一人でエントリーしたが、果たして一人で回るのかしら、という疑問が湧いた。一人ゴルフというのは楽しいのかと頭を悩ませつつティーグラウンドに進むと、どうやら組合せの様である。ゴルフクラブ側が気を遣ったのか、日本人絡みのグループであった。誰でも知ってる日本の大企業の現地駐在と、そのビジネスパートナーの華僑の若者の組に合流することになった。コースそのものは、インドネシア・オープンを2回ホストしているだけあって、アンジュレーションが適度にある林間コースで、なかなか面白かった。熱帯ゆえ芝が薄い所はあるが、これはやむを得ないだろう。しっかし、僕に付いたキャディは21歳なのだが、どうでも良いショットに、

「ナイスショー!タイガーウッズ!!」

とか叫ぶので調子は狂いっぱなしである。いやまぁ、僕はタイ人顔なので、母親がタイ人な同い年タイガーとは・・・、うん、全く関係は無い。あと、インドネシアはヤードじゃなくて、メーター表示なので、異常に脳内距離変換にエネルギーを使った。それでも熱帯の陽光にやられると朦朧としてしまい、ついヤード認識のまま打ってしまって、どショート続出である。
 総括すれば、25歳位でしょと聞かれ、いやいや34歳なんだなこれがと答えると、「えー見えない」とか、ほんとにキャバクラみたいな会話をして、多少のインドネシア語を習い、ボールは左へ曲げまくった4時間半だった。リゾートゴルフであっても、余りスポーツにキャバクラの要素は要らないのでは無いかと、腕の無さを雑念のせいにして、結論づけることにする。
Sunset
[Panasonic LUMIX LX3 / 24mm F8.0]

  • 昼過ぎスタートなので、終わり際は丁度青空と夕日の色が交錯する頃だった。

 ゴルフを終えると、後は空港に向かうだけである。空港で、ジョグジャカルタの街で売ってたよりはクオリティの高いジャワ更紗のスカーフを大小買った。ネクタイが余りに通り一遍なので、プライベートなパーティーではスカーフをすることが多い僕用に「小」、同じ柄の「大」は祖母への土産である。森ガールなんてのが認知されたお陰で、祖母とおそろで着れる様な、民芸品系の柄を若者も使える様になったのは大変ありがたい事だ。帰りは、JALのナイト・フライト。ぼーっとしているだけで、僕の人品卑しからぬ様子が効いたのか、プレミアムエコノミーにアップグレードされた。世の中には、うっかりと良いことがあるものだ。足元がスペーシャスなので、リラックス出来るし、ゴルフの疲れもあって、ぐっすりと眠れた。シートベルト着用サインが消える頃にリクライニングして寝て、一瞬夜明けの時に起きたが、その後は着陸前にシートをアップライトポジションに戻せという指示まで目が覚めないという理想的な展開である。
 日本人のフライトアテンダントに起こされて、ふと眼下を見れば、そこには行き慣れた成田周辺のゴルフ場が広がる。早朝の今、スタートホールはごった返していることだろう。そのキャバクラが付いていない普通のゴルフ場の存在を視野に認めた瞬間、ふと自分の中の旅行モードが終わった。今日これからは出勤、ボロブドゥールの記憶はもはや曖昧である。
Sunrise
[Panasonic LUMIX LX3 / 41mm F2.8]

  • 翼の向こうの夜明け。